前篇で触れたように、アフガニスタンからの撤退問題と複雑に絡み合いながら、中央アジアで繰り広げられている米ロの基地合戦。実際に米軍はどのように中央アジアに進出しつつあるのだろうか。キルギス、ウズベキスタンについては前述した通りであり、米国はトルクメニスタンに対しても関心を深めていると言われるものの、軍事基地に関する動きは明らかになっていない。そこで、ここでは最近動きが激しいカザフスタンとタジキスタンの状況を見ていこう。
米国はカザフへ周到な根回し
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カザフスタンは、ロシアと緊密な関係を維持してきた国であるが、アフガニスタン対策で米国に極めて協力的である。今年の4月26日には、カザフスタンのナザルバエフ大統領が、アフガニスタンを再建し、安定化させるための国際的なイニシアティブである、所謂「イスタンブールプロセス」に関する閣僚会議を主催し、米国、EUなど関係国が集った。そして、ナザルバエフ大統領は、アフガニスタン問題におけるカザフスタンの継続的な尽力の意思を表明し、その一環として、アフガニスタンからのISAF (NATO加盟国を中心に37カ国が派遣する国際治安支援部隊)の撤退をスムーズにするために、カザフスタンのアクタウ海港の輸送能力を拡張したうえで、同港の提供を申し出た。
表面的には、ナザルバエフ大統領が自主的に申し出たように見えるが、実は、これは米国の事前の周到な根回しの賜だという。ロバート・ブレーク米国務省南・中央アジア担当次官補とカザフスタンのマラート・タジン安全保障書記との間で交渉があったようだ。同港を米軍が利用できることの戦略的意義は大きく、これにより、米国はカザフスタンからカスピ海を経て、コーカサス、イランに直接のリンクを生むことができるのだ。
ただ同時に、これはロシアへの直接のリンクを生むことも意味し、ロシアのメディアや専門家の間ではこの動きに対する警戒論も出た。他方、カザフスタンはNATOとのバイラテラルな関係強化に関心を持っているだけであり、ロシアへの脅威を現実的に考える必要はないという意見も少なくない。また、イランの反発があることも忘れるべきではないだろう。