タジクは米との交渉を否定
だが、タジキスタンでは交渉が難航しているようである。タジキスタンやロシアのメディアで、タジキスタンと米国が基地問題で秘密交渉をしているという報道が度々なされてきたが、2011年7月18日にタジキスタン外相が「タジク国内に米国の軍事基地を開設することに関するいかなる交渉も、我々はしてこなかったし、近い将来、それをすることもない」と発言した。2012年2月20にも、タジキスタンの外務省報道官が、「タジク政府は、秘密交渉を含め、同国内に米軍基地を置く問題について、いかなる交渉も行っていない」と明言し、これらの報道内容を否定した。それでも、やはりこのような交渉があるという情報が度々報じられてきたのである。
他方、タジキスタンには、7000人規模の第201軍事基地が設置されており、これはロシアの国外陸軍基地としては最大規模のものである。加えて、現在、ロシアはタジキスタンの空軍基地も狙っている。アフガニスタンからのISAF撤退をにらみ、ロシアも中央アジアでの拠点をより堅固に確保しておきたいのである。だが、タジキスタン側は、自国領内に駐留するロシア軍の地位問題に関わるロシアとの協定の批准を引き延ばしている。つまり、ロシアの軍事拠点の拡大に難色を示しており、具体的な進展が見られていない状況だ。
ロシアのキルギスでの最近の軍事力拡大の動きは前述の通りだが、ロシアが中央アジアにおける戦略的目的を実現する上で、タジキスタンが持つ意味は極めて高い。そのため、前出の第201軍事基地は、中央アジアの諸共和国に住むロシア系住民を中心とした志願兵によって補充する計画であるし、タジキスタン中西部のギサル市近郊にあるアイニ空軍基地をロシア軍基地に編入する協定案が既にまとまっているのだという。ただし、今年1月にタジキスタン外相は、ロシアとタジキスタンの間の協定が全て履行されたあと、初めて「検討が可能になる」として、明らかに難色を示した。
その後、ロシアはタジキスタン側が提示した条件をほぼ全て受け入れたという。例えば、3月にタジキスタンからの移民への滞在優遇措置を導入し、同国向けの石油製品の輸出関税を廃止、またロシアはタジキスタンに対する兵器支援の拡大や大規模投資なども実際に着手されつつある。それにもかかわらず、タジキスタン側は、ロシアの要求をのむことを渋り続けている。タジキスタンのラフモン大統領が自身の次期選挙をにらみ、モスクワの支持を取り付けるために、妥協をするのではないかという見方もあるが、アイニ空軍基地の近代化には、ロシアのみならず、インドも参画しており、今後、米軍に同基地が貸与される可能性も低くないという見方も広くなされているのである。