米国の企業の多くは、自社のメンタルヘルス対策をEAP(Employee Assistance Program=従業員援助プログラム)にアウトソースしている。日本でも十数年前に取り入れられ、多くのEAP企業が事業活動を行っている。そのなかでも老舗といえるのがジャパンEAPシステムズだ。その副社長としてメンタルヘルスに関する著述、講演を精力的に展開する松本桂樹副社長にうつが増える社会的背景や最近の傾向などを聞いた。
松本桂樹(まつもと・けいき)
1969年東京都生まれ。東京学芸大学大学院教育学研究科修了。精神科クリニック勤務後、ジャパンEAPシステムズに入社。個人面談のほか講演活動、著述など定評がある。法政大学大学院講師なども兼務。主な著書にパニック障害を扱った『電車に乗れない人たち』(WAVE出版)など多数。臨床心理士、精神保健福祉士、シニア産業カウンセラー。
不安は触り過ぎれば膨らむ
―― EAPを日本に導入した最初の企業と言われています。設立は1993年ですから当時は職場うつなど社会問題化していなかった時期。その後、うつに悩む人が増えていく過程を見てこられたと思いますが、うつ病を蔓延させた社会的要因をどのように見ていますか。
松本:当社が日本初のEAPかどうかはわかりませんが、現時点で事業活動を続けているEAP専門会社のなかでは、最も歴史があります。うつが増えている社会的要因は、多くの方々が、それぞれの立場で指摘されており、それに異を唱えるつもりはありません。それぞれ正しい捉え方だと思います。ただ、要因は一つではなく複合し複雑に絡み合っているのだと思います。単純なことではないでしょう。
その前提で自分が感じているのは、ネガティブな状態にある人をいじり過ぎてきたこともある、という気がしてなりません。うつに目を向ければ向けるほど、うつ状態に陥る人が増えてきた、と思えます。精神交互作用、心身相関とか言いますが、不安は触れば触るほど大きく膨らんでしまう。メンタルヘルス対策として、不安な部分であるネガティブな状態に着目して、無くそうと取り組めば、おできのようにより腫れてしまう。コミュニケーションなどの対処法は大事ですが、ネガティブな面をいじる副作用もあったと思います。