2024年4月25日(木)

安保激変

2013年8月1日

 日本政府は、弾道ミサイルなどによる攻撃が行われる場合、「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とすることだとは考えられない」とし、攻撃が差し迫っている場合に策源地に先制攻撃をしかけることは法理的には自衛の範囲に含まれると解釈している(1956年2月29日鳩山一郎内閣の見解)。一方、他国に攻撃的な脅威を与える兵器を持つのは憲法の趣旨ではないとも解釈しているため(1959年3月19日岸内閣答弁)、策源地への先制攻撃は米軍に依存することになっている。このため、弾道ミサイルを導入するのであれば、少なくとも攻撃的な兵器を持つことが違憲でないことを示す必要がある。だが、連立を組む公明党の反対が予想されるため、慎重に連立与党内で調整を行う必要があるだろう。

現実を直視した国民的な議論を

 また、日本が弾道ミサイルを持つのは、アメリカの核の傘への信頼が低下した結果だと第三国に認識されてはならない。日米間の信頼が崩れた結果、日本が独自の戦略的攻撃能力を持つのだと認識されれば、それは日米同盟の抑止力を弱めることにつながる。あくまで、日本の弾道ミサイル保有は、日米同盟が複数の抑止力の選択肢を持つためであるということでなくてはならない。そのためには、当然日米間の緊密な連携と調整が必要になる。

 これまで、日米同盟は米軍が攻撃的な能力を提供し、自衛隊が防衛的な能力を提供する「矛と盾」の役割分担で成り立ってきた。しかし、「グレーゾーン」事態においては何よりも日本が主体的に防衛を行う必要がある。つまり、日本自身が「盾」も「矛」も持たなければならないのだ。米軍はあくまで攻守にわたって自衛隊の支援を行うことになる。これは、日本の安全保障政策および日米同盟関係の大きな転換であり、安倍政権はこの難題に取り組もうとしている。

 この秋には、将来の日本の安全保障を左右する動きが加速する。国家安全保障会議の設置、集団的自衛権の解釈変更、情報保全法の制定、武器輸出三原則の見直しなどによって、日本の安全保障政策はより主体的なものへと変わっていくだろう。来年以降は日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定作業も本格化し、日本が主体的な役割を果たす新しい日米同盟の役割分担が示されるだろう。それは時代の要請であり、決して「右傾化」などではない。しかし、日本の世論はこの流れに取り残されていないだろうか。アメリカに依存するだけで安全が保てるという神話はもはや通用しない。今回の中間報告を機に、現実を直視した国民的な議論を期待する。


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