「グレーゾーン」シナリオは、島嶼部で発生する可能性が高い。事態が拡大し武力衝突に至ることを防ぐためにも、万が一武力衝突に至った場合に島嶼を奪還するためにも、「海兵隊的能力」の導入は、島嶼防衛に大きく貢献するだろう。ただし、「海兵隊的能力」というのは、単に海上から陸上戦力を投入するだけではない。すでに陸上自衛隊への水陸両用車の導入が予算化されているが、それだけではなく、陸海空戦力が一体となる統合運用が不可欠である。この点、中間報告では、島嶼防衛に関して「航空優勢及び海上優勢」の確実な維持を前提としており、評価できる。
東日本大震災で明らかになった
機動展開能力の不足
今後はどのような形で「海兵隊能力」を自衛隊に導入するかが検討課題となる。これを考える上で、6月にカリフォルニアで行われた日米を中心とする統合訓練「ドーン・ブリッツ」が参考になる。同訓練では、島嶼部の防衛を主任務とする佐世保の西部方面普通科連隊(西普連)が海上自衛隊の護衛艦に乗艦し、訓練を行った。ここから見えてくるのは、コストがかかる新しい部隊の新設よりも、西普連を中心に、西日本に配備された既存の陸海空部隊を、ローテーションで柔軟に組み合わせて常設の統合任務部隊を創設する方が現実的だということだ。厳しい日本の財政状況に鑑みても、任務部隊の方が安上がりである。
しかし、統合運用は一朝一夕では実現できない。陸自は艦船からの行動に慣れなければならないし、装備を潮風から守ることも覚えなければならない。海自は、より浅瀬での作戦が求められ、陸上の移動目標への艦砲射撃も行わなければならない。空自は、戦闘機対戦闘機のいわゆる「ドッグファイト」ではなく、陸上の敵部隊を攻撃するために近接航空支援という低速・低高度での作戦が求められる。これらは自衛隊にとって新しい概念であり、部隊運用の原則から見直す必要がある。
機動展開能力の向上も大きな課題である。機動展開能力の不足は東日本大震災の時に明らかだった。たとえば、震災直後、北海道や沖縄の陸自部隊を被災地に輸送する能力が自衛隊には不足しており、米海空軍と豪州空軍の輸送艦や輸送機に依存しなければならなかった。このため、中間報告では、自衛隊による「統合輸送の充実・強化」と「民間輸送力の活用」が強調されている。加えて、オスプレイの自衛隊への導入も検討されている。「ドーン・ブリッツ」では、米海兵隊のオスプレイが護衛艦「ひゅうが」に着艦し、格納庫に収まることが確認された。自衛隊へのオスプレイの導入は、「海兵隊的能力」の重要な要素となり、統合運用と機動展開能力の向上にも大きく貢献するだろう。
弾道ミサイルによる攻撃にどう対処するか
論争を引き起こしそうなのは、「敵基地(策源地)攻撃能力」だ。中間報告では、「弾道ミサイル対処態勢の総合的な向上」としか書かれていないが、これは自衛隊が弾道ミサイルを保有することが選択肢の1つとなっていることを示している。自衛隊が北朝鮮のミサイル基地を攻撃する能力を保有すれば、ミサイル防衛システムと相まって北朝鮮のミサイル攻撃に対する抑止を強化できるからだ。