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BBC News

2023年11月13日

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ヒュー・スコフィールド、BBCニュース(パリ)

イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスとの戦争や、その欧州への余波を受け、先週末のパリでは前例のない出来事が起きた。

フランスで初めて、極右を含む政党の代表らが大規模な抗議デモに参加した。一方で、極左政党は参加しなかった。

フランスでは10月7日のハマスのイスラエル襲撃以降、反ユダヤ主義的な行動が増加している。こうした事態を受けて上下院の議長らは、フランスの「共和政」の価値を支持し、反ユダヤ主義を否定するよう求めるデモを呼びかけた。パリでは12日午後、このデモに数千人が参加した。

このデモに参加すると最初に表明したのは、極右「国民連合(旧・国民戦線)」から大統領選に3回出馬したマリーヌ・ル・ペン氏と、同党の若き党首ジョルダン・バルデラ氏だった。

ほぼ同時に、極左「不屈のフランス」のジャン=リュック・メランション党首も態度を表明した。メランション氏はソーシャルメディアで、このデモ行進は「(ガザ市民の)虐殺を無条件で支持する人たちとのランデヴー」だと述べ、自分の政党は参加しないと述べた。

この入れ替わりが象徴する意味は極めて大きい。

フランス政界はここ数十年、極右の考え方は(ユダヤ人に対するものに限らず)「反共和政的」だして、それを防ぐ壁を築いてきた。旧・国民戦線の創始者でマリーヌ氏の父であるジャン=マリー・ル・ペン氏の主張はもってのほかとされ、敬遠された。

共産主義者やトロツキスト、そしてメランション氏率いる「不屈のフランス」といった極左もまた、その主張を攻撃されていたが、政治の舞台から除外されることは一度もなかった。極左は幅広い政界の一員である一方、ル・ペン氏らの政党は明らかにそうではなかった。

数年前までは、極左政党が反ユダヤ主義に抗議するデモに参加しないなど考えられなかっただろう。逆に極右政党が参加することも、道義的に受け入れられなかっただろう。

このような政治秩序の揺らぎは、もちろんガザでの戦争よりもずっと以前から起こっており、他の欧州諸国でもさまざまな形で反映されている。

こんにちの極右は、「強硬右派」や「国民右派」と名前を変えつつ、(少なくともフランスにおいては)ユダヤ人と、ユダヤ人の利益を追求しているとする「ユダヤ・ロビー」への執着を忘れている。極右が現在注目している問題は三つの「I」、すなわち移民(Immigration)、社会不安(Insecurity)、イスラム主義(Islamism)であり、多くのユダヤ人が持つ大義と一致している。

一方フランスの極左は、ガザ地区の問題を反植民地主義の視点で分析しており、抑圧された人々が超大国に激しく攻撃されているとして、「連帯」を叫んでいる。労働者階級の多くが国民連合に投票し、その支持を失ったため、極左は現在、政治意識の高い移民を新たな支持基盤としている。

つまりフランス政界では今、新しい状況が生まれている。ホロコーストを「歴史のさまつな点」と呼んだ人物が創設した極右政党が、ユダヤ系フランス人の大義を公に支持する半面、人権と平等を理念とする極左政党が、ハマスを「テロリスト」と呼ばなかったことで、反ユダヤ主義として非難されているのだ。

だがこの状況にも全て、微妙な違いがあるのかもしれない。結局のところ、多くの人々はなお、極右はフランス第一主義を掲げているのだから、反ユダヤ主義にならざるを得ないのだと考えている。たとえば国民連合のバルデラ党首は先週、ジャン=マリ・ル・ペン氏が反ユダヤ主義的だったと述べるのを拒否した。この失態に、国民連合の政敵は大喜びした。

極左でも、メランション氏の厄介な性格と独裁的なやり方が一部の同僚を憤慨させており、分断の兆しが見えている。「不屈のフランス」幹部のラケル・ガリード氏は今週、党首の路線、とりわけハマスをめぐる意見に異議を唱えたとして、党報道官として4カ月の停職処分を受けた。

しかし根本的な点はそのままだ。国民連合がマリーヌ・ル・ペン氏の下で政治の主流への道を進み、メランション氏の「不屈のフランス」は主流からそれつつある。

先週行われた世論調査でもこの傾向が出ている。「大統領選の第1回投票が今日行われたら誰に投票するか」という質問に対し、マリーヌ・ル・ペン氏と答えた人は33%だった。2022年に同じ質問でメランション氏と答えた人は22%だったが、今回14%に下がった。

今週、フランスでの反ユダヤ主義との闘いにおける歴史的人物の一人が、歴史と政治の皮肉について見解を述べた。

セルジュ・クラルスフェルト氏(88)と妻のベアテ氏は、ナチスの戦争犯罪人を裁判にかける活動で知られる。また、フランスからにホロコーストで命を奪われたユダヤ人8万人の追放と死を記録した。

仏紙ル・フィガロのインタビューでクラルスフェルト氏は、「私にとって、極右のDNAは反ユダヤ主義だ。だから極右の大政党が反ユダヤ主義や否定主義を捨て、共和制の価値観に近づくのを見て、素直に喜びを感じる」と述べた。

「極左の側には常に反ユダヤ主義の伝統がある。国民連合がユダヤ人のために行動するのを見て私はほっとするが、それと同時に、極左が反ユダヤ主義に対抗する行動を放棄するのを見ると悲しくなる」

(英語記事 March against antisemitism breaks new ground in France

提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-67400361


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