日本にとっても他人事ではない
米政府が国内の「ねじれ」に足を取られて動けないという今の状況が万が一、オバマ政権末期まで続くとすれば、それは米国の外交に大きなダメージとなる。中東では、シリア情勢をめぐる多国間外交の主導権は完全にロシアが握ることになり、この地域における米国の影響力は急速に低下するだろう。関係改善に向けた第一歩が踏み出されるかと思われたイランとの関係も、イランの指導層に足元を見られ、振り出しに戻ってしまうかもしれない。欧州ではEUとの間で交渉を進めようとしている自由貿易・投資協定(FTA)も現在の目標である2014年末までの交渉妥結は覚束なくなるだろう。
アジア太平洋地域への影響も甚大だ。たとえば環太平洋パートナーシップ(TPP)。米国がこの交渉妥結に向け多国間交渉の場で行う譲歩が、合意を履行するために必要な国内法を整備する上での議会との折衝で認められるかどうか甚だ心もとなくなってしまう状態では、交渉に参加している他国が、国内からの反発がある案件について交渉妥結に向けた譲歩をする空気は生まれにくくなるだろう。しかし、TPPは、オバマ政権の「アジア太平洋重視」戦略の経済面での要となる政策であり、これがうまくまとめられなければ「アジア太平洋重視」戦略が完全に腰砕けになる。
すでに軍事面では、国防費削減、予算強制削減措置に伴う米軍の域内での活動の縮小にともない、国防省の「アジア太平洋へのリバランス」戦略が持続可能なものなのかどうかについて、地域の同盟国の中で懸念が出ている。これまで米国は、そのような懸念に対して「『アジア太平洋重視』戦略は軍事面が全てではない。経済面も含めた総合的な戦略だ」と説明することで、この地域の同盟国の懸念を和らげようとしてきた。これでTPPまでまとめられなくなってしまうとすれば、それはオバマ政権の「アジア太平洋重視」政策が重大な壁に突き当たることを意味する。
10月17日の期限までに米議会とホワイトハウスの間で債務限度額引き上げについて合意が形成されない場合、アジア太平洋にとどまらず世界経済全体が大打撃を受けるリスクがあることは言うまでもない。つまり、第二次世界大戦後70年近くにわたって築かれてきた「軍事・経済大国アメリカ」を中心とした国際秩序そのものへの信頼感が大きく損なわれるリスクを、現在の米国の国内情勢は内包しているのである。
日本にとってもこれは他人事ではない。それどころか、米国で今のような「決められない政治」が続けば、安倍政権発足後、アベノミクスの第一(金融緩和)、第二(財政出動)の矢により、ようやく楽観的ムードが漂い始めた日本経済の回復が振出し戻るどころか、マイナスに後退してしまう危険性もある。2プラス2で日米同盟のさらなる深化が合意されたからといって、満足している場合ではないのだ。
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。