「バイロン・ケイティのワーク」を知った時、精神医療に関わる人たちに知られていない、もしくは無視されているかもしれない手法の中に、本質的な改善をもたらす効果が得られるようなものがあるのでは、と考えました。それならば効果検証をして、本当に効果があるのなら、世の中に広めてもいいのではないか。そのような問題意識が芽生えたのです。「バイロン・ケイティのワーク」に関しては、千葉大学大学院医学研究院と共同で実証研究を行い「精神医学」誌上で発表しています。
さらに、それまで気が付かなかったのですが、人間の思考は多くの場合、現実離れした歪んだものになっていて、これが様々な社会現象を起こしているのではないか。社会科学は前提として「人間は合理的である」という仮説を立て現象を説明しているが、これは違うのではないか。人間の行動の多くは怒りや恐怖で動かされている、とみれば社会現象の多くは、認知療法の思考と感情のメカニズムで説明できます。問題のある社会現象は、認知療法を使うことで解決できるかもしれない。それを研究したいと考えたのです。
―― 認知療法がすべての人に適応できることなのか、私自身は消化不良の状態です。認知療法について、もう少し説明していただけますか。
関沢:認知療法の基本的な発想は、思考が感情に影響を及ぼすというものです。思考とは、頭の中を流れている声です。それを信じると感情が伴ってくる。「私は価値がない人間だ」という声を信じれば憂鬱になるし、「もうすぐ解雇されるかもしれない」と思えば不安でどうしようもない状態になります。それらの思考の大部分は現実離れしたものなので、感情の背後にある思考を見つけ出して、それが正しいのかどうか、合理的なのかどうかを検証する。これが認知療法です。
思考に向き合うことで感情を変えることができるという感覚は、どんなに学問的に探求してもわからず、自分自身で認知療法を体験しないとわからないと思います。私自身は「バイロン・ケイティのワーク」を行った時に初めてその感覚をつかみました。認知療法を体験するには、うつ症状になっている必要はなく、日常レベルの感情に対して取り組めるので、感情がない人を除けば全員やれることです。
不安を感じる人は消費行動が低い
―― うつ病に関わる研究をどのように政策に反映していくのでしょうか。
関沢:内閣府が発表する「消費者態度指数」という調査があります。これは、消費者に半年後の生活水準などを聞き数値化したもので、景気と関係があると言われています。この消費者態度が、感情や思考、様々な心理指標に関係があるのかどうか調査しています。調査票で読み取ったデータから不安水準が高い人々は消費者態度が低く、不安水準が低い人々は消費者態度が高い傾向がわかります。(グラフ参照)