「20年ほど前までは、敷地の裏に手入れされていない雑木林があったため、空き缶や家具・家電などの不法投棄の温床になっており、地域の大きな課題でした。産廃事業者として、この状況を看過できず、土地をお借りしたり、取得したりして、里山の保全事業を開始し、管理するようになりました。当然、管理費はかかるし、売り上げが著しく上がるわけではありません。でも、地域の人から信頼を得るために必要な〝投資〟だと考えたのです。
『三富今昔村』と名付けた一帯は、地域の人々の憩いの場となるよう、食事処をつくったり、子どもたちがのびのび遊べる遊具を設置したり、伝統文化に触れたりと、自然に恵まれたフィールドを拠点に、さまざまなワークショップを開催し、体験型の『環境教育』を実施しています。ネガティブなイメージを持たれがちな業界だからこそ、地域に貢献することで少しでも興味をもってもらいたいのです」
副次的な効果も見られる。社員210人のうち、40歳以下の社員が47%を占める。業界ではトップクラスの若さで、近年は採用における応募者も増えているという。
重機を器用に操り、廃棄物の分別作業をしていた河面晃平さん(33歳)は「僕が入社した頃に比べても現場はだいぶ若返りました」と話す。年少ながらこの持ち場のリーダー的存在だ。同じ持ち場で作業をしていた権津川等さん(38歳)は2年前に転職してきた。「もともとはこの工場に廃棄物を運ぶ側の人間でした」と笑う。
石坂さんは「今年の新入社員の中には、高校生の時に三富今昔村の見学に来ていた人もいます。『自分のやりたいことがここにあった』と聞いた時は嬉しかったです」と頬を緩めた。
瀬戸際にある今だからこそ
マネジメントの再考を
日本の喫緊の課題は「現場の声を聞くこと」と石坂さんは語気を強める。近年のホワイトカラーの「マネジメント」に対する目も鋭い。
「最近は人手不足もあり、現場の声も聞かずに、何でも数字上のコストと捉えて管理しようとする傾向が強まりました。しかし、本来マネジメントとは、現場の声を聞き、彼らが働きやすくなるよう最大限支援すること。加えて、『自分たちの仕事が社会にどれだけ役立っているのか』を現場で働く人に実感してもらうことのはずです」
本格的な人口減少社会に突入していくからこそ、その訴えは切実だ。
「このままいけば、好むと好まざるとにかかわらず、誰もがエッセンシャルワーカーの仕事をしないと世の中が回らない社会になっていくでしょう。そのことに気づく人が増え始めたのは明るい兆しかもしれませんが、瀬戸際にあることは間違いありません」
平成に入り、日本人の「安さ」を求める傾向は一段と強まった。同社も経営を考えて値上げに踏み切ったこともある。だが、そうすると顧客はより安価な会社を探すので、結果的に同業他社に仕事を奪われることもある。
「社会構造を変えることは本当に難しいことです」(同)
それでも、石坂さんは前を向く。
「これからも私たちの仕事の価値に共感してくれる人を増やしていきたい。〝現場の価値〟を伝え続けるのが私の役割なのです」
同社の特徴の一つである「従業員の若さ」を生かした豊かな発想力で、これからも業界のフロントランナーとして走り続けてほしい、そう思った。