2024年8月30日(金)

BBC News

2024年8月30日

11月のアメリカ大統領選に向けて民主党の大統領候補になったカマラ・ハリス副大統領は29日、候補としての初の本格的なインタビューに臨んだ。バイデン政権のもとでのこれまでの経済対策や移民問題対策での成果を強調したほか、共和党のドナルド・トランプ候補の言動を批判した。

ハリス氏は、副大統領候補のティム・ウォルズ・ミネソタ州知事と共に同日、ジョージア州サヴァンナで米CNNによるインタビューの事前収録に応じた。

インフレと物価高が国民の財布を圧迫し続けるなか、各種世論調査は一貫して、経済対策についてバイデン政権よりもトランプ候補を評価する有権者が多いことを示している。

それだけにハリス氏は、バイデン政権がパンデミック後の「経済回復」を実現したほか、この数カ月間で違法移民の越境を減らしたと強調した。

副大統領は、処方薬の薬価や失業率が低下したことなどを挙げ、ホワイトハウスによる経済政策は「成功」したと指摘。「よい成果だし、まだまだやるべきことがある」と述べた。

他方、ハリス氏とCNN司会者のダバ・バッシュ記者のやりとりが特に厳しいものになったのは、エネルギー開発や違法移民対策などいくつかの政策課題について、ハリス氏の姿勢がここ数年間で変化してきたと記者が質問した時だった。

これに対してハリス副大統領は、「政策に対する自分の展望や決定にとって、何より大事で重要なのは、私の価値観が変わっていない点だと思う」と答えた。

トランプ候補はこのCNNインタビューについて、事前収録されたことや、ウォルズ氏と一緒だったことを事前に批判。放送が終わると自分のソーシャルメディアに一言「つまらない!!!」とだけ大文字で書いた。

エネルギー開発と気候変動について

ハリス副大統領は気候変動対策について、化石燃料への依存度削減を目標にした民主党の「グリーン・ニュー・ディール」を一貫して支持してきたとして、自分の価値観は不変だと主張した。

「私は常に、気候変動は本当に起きていることで、喫緊の問題だと信じてきたし、そのために働いてきた」とハリス氏は述べ、バイデン政権のインフレ削減法を例に挙げた。同法は、再生可能エネルギーや電気自動車を対象にした税控除に数千億ドルをつぎ込んでいる。

「私たちはアメリカ合衆国のために、そしてその延長として地球全体のために、温室効果ガス削減の一定の基準をいつまでに実現すべきか、目標を設定している」と、ハリス氏は話した。

一方、フラッキング(水圧破砕法を使ったシェールガス・石油の開発)について、禁止支持から禁止反対に方針を変えたことについては、理由を説明しなかった。岩石を砕いてシェールガスや石油を採掘する技術は、特に激戦州ペンシルヴェニア州で影響力を持つエネルギー業界が使用している。

ハリス氏は2019年にCNN開催のタウンホール集会で「自分は紛れもなく、フラッキング禁止を支持する」と発言していた。しかし、2021年に副大統領になって以降は姿勢を修正。フラッキングを用いる鉱業権のリース拡大を認める法案について、可否同数に際して上院議長として賛成の議決をしたことを、この日のインタビューでも自ら強調。

「自分の立場について、私は明確に示している」と述べ、「大統領として、私はフラッキングを禁止しない」と言明した。

陣営広報担当のブライアン・ファロン氏はソーシャルメディアに、「バイデン政権のクリーンエネルギー投資は、(フラッキングに反対したハリス氏の過去の姿勢がなくても)気候問題について成果を出せると証明した」ことから、「ハリス副大統領は2019年の自分の方針を変えたことについて説明した」と投稿しした。

「コンセンサス形成」のため移民対策を修正

「この国の国境を堅固なものにする」テーマについても、ハリス氏は「私の価値観は不変」だと述べ、自分がカリフォルニア州司法長官として「国境を越えた犯罪組織を起訴し続けた」ことに触れた。

一方でハリス氏はその後、上院議員として、さらには2020年大統領選に出馬した2019年にも、移民収容センターの閉鎖や違法越境の非犯罪化など進歩的な姿勢を打ち出した。しかし今年初めには、国境の壁建設の予算数億ドルを含む超党派の強力な国境警備強化法案を支持した。

この超党派法案はトランプ候補が共和党議員団に否決するよう圧力をかけたため、廃案となった。しかしハリス氏は、自分が大統領になれば「署名して法律として成立させる」と公約している

不法移民問題について自分の方針を修正したことについてCNNのダナ・バッシュ司会者に質問されると、ハリス氏は副大統領として国内各地を訪問した結果、「コンセンサス形成が重要で、実際の問題解決につながる共通理解の場を探すことが重要」だと考えるようになったのだと答えた。

こうした超党派の共通認識形成のためにも、自分の政権には共和党関係者を閣僚として迎えるとハリス氏は約束。これは「すべてのアメリカ人の大統領になる」という公約実現につながると抱負を示した。

「私は自分のキャリアを通じて、多様な意見を招き入れてきた。特に大事な決定をするテーブルに、異なる意見の人たちが参加することが大事だと思う」と、ハリス氏は述べた。

ガザについて

ガザでの戦争について質問されると、ハリス氏はホワイトハウスの方針を繰り返し、イスラエルとイスラム組織ハマスが共に和平合意を実現する必要があるほか、イスラエルの隣にパレスチナ人は自分の国を持つ権利があると述べた。

「この戦争は終わらなくてはならない。人質解放につながる合意をまとめなくてはならない」と、副大統領は強調した。

ただし、イスラエルへの武器禁輸は約束しなかった。民主党内左派はこれを要求している。

ウォルズ知事、発言ミス認める 「情熱」のため

副大統領候補のウォルズ知事は、アメリカ陸軍州兵として20年以上勤務した。かつて自分が「戦争」でアサルトライフル(自動小銃)を「携行」したと発言したことについて、その内容を説明するようCNNは知事に求めた。

陣営はすでに、ウォルズ知事が兵士として実際の戦場にいたことはないと説明している。これについて知事はCNNに対して、自分の発言が不正確だったと認め、学校での銃暴力について「情熱的に話す」中で「感情が先走ってしまった」のだと釈明した。

同様に知事は、共和党が不妊治療に介入しようとしていることへ「情熱的に」反対するあまり、自分の妻が体外受精(IVF)治療を受けたのだと誤って発言したと認めた。知事の妻グウェンさんが実際に受けた治療はIVFではなく、人工授精(IUI)治療だった。ただし、不妊治療の専門家たちは、一般的に「体外受精」と「人工授精」の用語が混同して使われるのはよくあることだと指摘する。

大統領選では、妊娠の人工中絶不妊治療が大きな争点となっている。

ウォルズ氏は自分の経歴とそれが物語る内容は明確だとしたうえで、不妊治療や中絶禁止をめぐる自分たちと共和党側の陣営との「対比はこれ以上ないほどはっきりしている」と話した。

CNNのバッシュ記者はさらに、知事の息子ガスさんについても話題にした。高校生のガスさんは、民主党の全国党大会で知事が指名受諾演説をしている最中に立ち上がり、涙ながらに拍手しながら「あれが僕の父さんだ!」と繰り返した。ガスさんのその姿は、インターネットなどで大いに話題になった。

「あれは本当に生身の思いにあふれた瞬間で、あの経験ができたことは本当にありがたいと思っている」と知事は答え、「本当に彼のことが誇らしい」と息子への思いをあらわにした。

バイデン氏の撤退について

ハリス副大統領はインタビューでさらに、ジョー・バイデン大統領から7月に、大統領選から退くと決めたと電話で伝えられた時のことを振り返った。

その電話がかかってきた時、訪問中の親類や家族に囲まれていたのだとハリス氏は明らかにした。全員でパンケーキとベーコンの食事を終えて、一緒にパズルに取り組んでいた最中だったのだという。

自分への支持をバイデン氏に求めたのかと質問されると、ハリス氏は「正直言って、真っ先に気にしたのは、自分のことではなく、彼のことだった」と答えた。

ハリス氏はさらに、バイデン氏なら2期目を務められたはずだと強調。「本当に頭がいい人で、大統領執務室やシチュエーションルームで何時間も一緒に過ごしてきた。アメリカ国民が大統領に当然求めるべき、知力と責任感と判断力と気質の持ち主だと思う」とたたえた。

対照的にトランプ候補は、大統領に必要なそうした資質をいっさい備えていないと、ハリス氏は批判した。

取材を避けてきたと共和党は批判

ハリス氏はこれまで、大統領候補として本格的なインタビューを避けていると共和党や一部の有識者から批判されていた。

今回のCNNインタビューでハリス氏は、バイデン大統領が撤退してから初めて、政策課題の内容について記者の質問に時間をかけて答えた。

バッシュ記者は6月27日のバイデン大統領とトランプ候補の討論会でも、司会の一人を務めた。この際のバイデン氏の受け答えがあまりに精彩を欠いたことから、民主党内でも懸念が高まり、再選を目指していた現職大統領が撤退するという異例の事態につながった。

(英語記事 Harris defends White House record in high-stakes first interview

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c4ge4vr9k54o


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