2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2024年8月13日

 米国の大統領選挙を報じるニュースで、再びラストベルト(さびついた工業地帯)が話題に上っている。共和党副大統領候補に指名されたJ・D・バンス上院議員の育ったオハイオ州は、ラストベルトの一角だからだ。そして大統領選挙の勝敗を左右するのが、ラストベルト諸州の動向ということもある。

 オハイオ州を含む米国中西部は、かつて自動車や製鉄など重厚長大な製造業地帯だった。しかし安価な労働力を求めてメキシコなどへ工場の移転が進み、失業者が溢れた。

 長く製造業に従事していた労働者は金融やIT産業といった新産業への転職もままならず、酒や薬物に溺れ、貧困のループから抜け出せなくなる。地域の治安も悪化した。そうしたルサンチマン(怨恨)が、米国社会の分断を生み出したのだろう。

米国でもう一つの分断を生み出す「森のラストベルト」(レイチェル・ホルト氏提供)

もう一つのラストベルト

 このようなラストベルトが、北米西海岸にも広がっている。主にカリフォルニア州北部からオレゴン州、ワシントン州、そしてカナダのブリティッシュ・コロンビア州にかけての森林地帯だ。従来の林業や木材産業の衰退で、「森のラストベルト」と化している。

 北米大陸に入植したヨーロッパ人は、広大な森を伐り開きながら白人の国を建設していった。その伐採の波は、19世紀には西海岸に達し、そこで「赤い金塊」と呼ばれるレッドウッド(セコイア)の森に出会う。直径10メートルを超えるレッドウッドを伐れば莫大な富が得られた。

「赤い金塊」を次々と伐採していったかつての開拓者たち(ilbusca/gettyimages)

 この〝ゴールドラッシュ〟は、大木を伐採する伐採者「ロガー」を多く生み出した。彼らにとって木を伐ることは森とともに生きる証であった。

 だが無限にあると思われた「赤い金塊」も尽きる時代がやってくる。もはやレッドウッドの95%は失われ、伐採反対の声が強まった。


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