2024年10月10日(木)

Wedge REPORT

2024年8月13日

 1990年代には原生林に棲むマダラフクロウを守れという合い言葉によって森林保護の訴えが米国全土に広まった。運動の主役には、都会からやってきた高学歴の白人が多数占める環境保護論者、そしてヒッピーなどのカウンターカルチャーの人々も多くいた。

 彼らは原生自然を神聖視して「アース・ファースト!」を唱え、「地球の敵に妥協せず」を旗印にした。環境保護に賛同する都会の富裕層や政治家の支援を受けて運動は拡大した。その結果、原生林の多くが保護区となり従来の林業家は締め出される。

 ロガーたちは、都会の涼しげなオフィスで働くことはできなかった。いや拒否した。その結果、酒や薬物に溺れて家庭を崩壊させ貧困に喘ぐ。そして都会のインテリを憎悪した。その姿は、工業地帯のラストベルトとそっくりだ。

ロガーたちの〝復讐〟

 森から追われた「森を愛する伐採者」たちにとっての〝復讐〟は、盗伐である。伐採が禁止された国立公園の森にこっそり潜入し大木を伐採する。そして幹にできた瘤(バール)だけを切り取っていく。バールには複雑で美しい木目があり、木工で珍重されて宝石のように高く売れるからだ。

カナダ・ブリティッシュコロンビア州での伐採(地球・人間環境フォーラム提供)

 北米全体の盗伐被害額は、年間10億ドルに達すると推定されたこともある。そこで取り締まるレンジャーが配置され、森の中にカメラやセンサーを設置し、闇夜の林道で張り込む。銃で狙われる不安を抱えつつ、盗伐者と対峙するのである。彼らも命懸けだ。

 ところで西海岸の森林地帯の林業は衰退したのかというと、そうではない。むしろ新たな林業、新たな木材産業が勃興している。それはバイオマス発電燃料となる木質ペレットの生産だ。

 石炭石油の代わりに木を燃やしても理論上は二酸化炭素(CO2)を排出したことにならないとされたからだ。つまりバイオマス発電所は脱炭素に貢献し、再生可能なエネルギー源だとされて、木質ペレットの需要が爆発的に拡大したのだ。

 米国の私有林の多くは、21世紀の初頭にTIMO(林業投資経営組織)やT-REIT(林業不動産投資信託)と呼ばれる大手ファンドの所有になった。そこで働くのは地元のロガーたちではない。巨大な林業機械を操縦して森を皆伐する林業会社の従業員である。伐られた木は、遠くの町の製材所かチップにされて木質ペレット工場に運ばれていく。

 この大規模な森林伐採行為は合法とされる。伐採跡地に植林をすれば森林面積は減ったことにならず、カーボンニュートラルになるから地球環境にも寄与すると認められる。ラストベルトの住人が行う盗伐のように1本2本とこっそり盗み伐るのは犯罪だが、山を丸ごと皆伐しても「アース・ファースト」な事業と見なされたのである。


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