2024年10月10日(木)

Wedge REPORT

2024年8月13日

 盗伐した場合はもちろん正規の伐採地でも、植えられるのは、せいぜい3割程度だ。再造林しない伐採は厳密には違法だが、警察や行政は見て見ぬふりで止めようとしない。

過疎化と国土破壊という日本特有の問題

 伐られた木材の行き先は、町にある大規模な製材所かバイオマス発電所だ。木造建築や再生可能エネルギーは「地球に優しい」と説明されるが、森林には優しくない。伐採によって傷つけられた山肌は、多発する大雨などで山崩れや大洪水など災害を誘発し、もう一つの地球的課題である生物多様性も破壊した。

宮崎県都城市の伐採地。100ヘクタールもの面積が裸地になった(著者提供)

 そして木を伐り尽くしたら業者は去り、荒れたはげ山だけが残る。森のラストベルトが製造業の町より厄介なのは、環境、そして国土を破壊する度合いが大きいことである。

 日本のラストベルトは、米国のように薬物汚染や犯罪多発には至っていないが、むしろ過疎化の進行が早く進む傾向にある。人口が減れば、政治に訴える力も小さくなるだろう。

 だが、都市と地方の格差は経済だけでなく意識の面でも広がり、社会の分断を進める。これこそがラストベルトのもたらす最大の厄難だ。町に残る人々も、町に出た人々も、賑やかだった昔の思い出と故郷を喪失したルサンチマンをため続ける。

 米国大統領選挙を通してラストベルトの存在を知った今こそ、自らの足元に膨れ上がっている森のラストベルトに気づいてほしい。

参照
『樹盗 森は誰のものか』リンジー・ブルゴン著、門脇仁訳
『盗伐 林業現場からの警鐘』田中淳夫著
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