インドのモディ首相が8月23日にウクライナの首都キーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。モディ首相は、ゼレンスキー大統領に、友人として平和に協力する用意があることを伝えたようだ。7月にはモスクワを訪問してプーチン大統領に会ったばかり。モディ首相は何の理由があって両国を訪問したのだろうか。
モディ首相のウクライナ訪問が注目されるわけ
まず、なぜモディ首相のウクライナ訪問がそれほど重要なのか。ウクライナは戦時下だが、すでに多くの欧州諸国の首脳が訪問し、アジアからも、インドネシアに続いて、日本の岸田文雄首相も訪問している。その点から言えば、モディ首相が訪問しても、特に新しい側面はない。
ただ、インドがそれを行う場合、他の国とは違う側面がある。なぜなら、インドはロシアと非常に強いつながりがあるからだ。
1970~90年代、インドは非同盟政策を掲げていたにもかかわらず、実際には、ロシア(ソ連)と正式な同盟関係にあった。1971年にインドとソ連が結んだ印ソ平和友好協力条約の第9条は、両国が第3国に対して軍事的に協力することが書かれているから、これは同盟関係の定義に該当する。そのため、インドはソ連から大量の武器を輸入するようになり、武器の修理部品や弾薬の供給をめぐって、現在でも、ロシアに大きく依存している(詳しくは「ロシア製ミサイル配備を決めたインドの深刻な事情」参照)
そのため、2022年2月にロシアがウクライナ侵略を開始したとき、インドはロシアを非難しない姿勢をとってきた。ウクライナのブチャで虐殺が明るみになった時も、インドは国連でその行為を激しく非難したが、「ロシア」という国名を出さないように配慮していた。そして、日本を含め西側諸国がロシアに経済制裁をかけている最中でも、インドはロシアから原油輸入を増やし、制裁の効果を減殺してしまっていた。
ただ、インドは、相当、苦悩の末に、このような決断に至っていたようである。それがわかるのは、西側諸国にも数多くの配慮をみせてきたからであった。
まず、西側諸国による、対ロシア経済制裁に関して、中国は西側諸国を非難しているが、インドは非難していない。ウクライナに対する人道支援も行っている。
ゼレンスキー大統領に対しても、昨年、広島で行われた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の際に会ったことも含め、対面・電話両方で、繰り返し会談している。そして、モディ首相がプーチン大統領に会った際は、「今は戦争の時代ではない」と直接伝え、戦争に反対であることを明確に示したのである。
このような行動の結果、インドに対して、一つの期待が生まれた。それはインドが、ロシアによるウクライナ侵略において、両方の指導者と直接やり取りできる、仲介者になれるのではないか、という期待である。だから、モディ首相がモスクワを訪問した次の月にキーウを訪問したことは、注目されるのである。実際にモディ首相は会談でそのような姿勢を示したようだ。