2024年11月22日(金)

インドから見た世界のリアル

2024年8月26日

なぜ今、仲介なのか

 ただ、ロシアのウクライナ侵略が始まったのは、22年2月で2年半も前だ。それまで仲介がうまくいっていないのに、なぜ今、インドの仲介外交が、注目されるのだろうか。おそらく背景には、米国の大統領選挙がある。

 米国では11月に大統領選挙があり、25年1月には、新しい大統領が誕生する。トランプ前大統領か、ハリス副大統領だ。最近はハリス副大統領がじりじり人気を上げて接戦になっているが、まだ接戦州でトランプ前大統領がほんの少し有利な状態とみられている。そのトランプ前大統領がカギになっている可能性がある。

 トランプ前大統領は、繰り返し、ロシアのウクライナ侵略を終わらせ、ロシア対策から中国対策へと、政策をシフトさせることを主張している。しかも「電話一本で終わらせる」とまで豪語している。そのため、もし仮に11月に選挙で勝利したら、1月の就任を待たず、トランプ大統領がロシアとウクライナの停戦交渉に着手する可能性がある。

 そのため、各国とも動き始めている。すでにゼレンスキー大統領はトランプ前大統領と会談しているし、ウクライナの隣国ポーランドの大統領もトランプ前大統領と会談した。

 ウクライナの軍事作戦も変わった。ロシアから奪われた領土の奪還だけでなく、一部地域でロシアに積極的に攻め込んでいる。もし停戦交渉が行われるなら、奪い取った領土を交換することも考えられ、11月までにできるだけ交渉カードを得ておきたいからだ。

 このような状況なので、仲介外交も活発化しているのである。欧州連合(EU)の議長国になったハンガリーのオルバン首相は、トランプ前大統領に会いに行っただけでなく、ゼレンスキー大統領とプーチン大統領にも話に行った。そして今回は、モディ首相、というわけである。

 こうした行き来で、遠距離では伝え難いメッセージを、直接送ったり、有力人物と会ってコネを作っておくことは、トランプ前大統領が勝利した際の停戦交渉においても、インドが貢献するかもしれないことを意味している。もし貢献したら、「米国が行う停戦交渉は、実はインドのおかげで成功した」と外交的成果をアピールできる。そのためには、今、先手を打って、動いておかなければならないのである。

 ただ、インドの動きには、もう一つ懸念事項がある。中国の動きだ。プーチン大統領だけでなく、ウクライナのクレバ外相も中国を訪問しており、中国による仲介外交にも注目が集まっている。

 もし仲介外交で中国が成果を上げれば、中国の影響力はますます高まる。インドは、中国に負けたくないのである。


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