2024年8月30日(金)

BBC News

2024年8月30日

アナ・フェイギー記者(ワシントン)、トム・ベイトマン国務省担当編集委員

敷地内の選挙活動が禁止されているアメリカのアーリントン国立墓地で、ドナルド・トランプ前大統領が戦死した米兵の墓前で遺族と記念撮影したことをめぐり、アメリカ陸軍は29日、墓地職員が撮影について陣営スタッフに注意しようとしたところ、陣営関係者に「いきなり押しのけられた」と発表した。

米連邦法は、軍関係者が眠るアーリントン国立墓地の敷地内での「政治活動を明確に禁止している」。そのため墓地職員は、トランプ候補と陣営スタッフが墓地内で追悼行事に参加するにあたり、規則を守っているか確認しようとしていたという。

陸軍報道官は29日の声明で、「残念な出来事で、アーリントン国立墓地の職員、そのプロ意識が不当に攻撃されていることも残念だ」と述べた。

トランプ陣営は批判内容を否定しており、戦死米兵の遺族から墓地での撮影許可を得ていたと主張している。遺族もこれを認めているが、墓地内での撮影は家族が許可できることではない決まりになっている。

アメリカ陸軍は、参加者には事前に連邦法の決まりを説明したとしている。

陸軍の声明によると、墓地職員が陣営スタッフに押されたことは警察に通報されたものの、職員は被害届を出さないことにした。陸軍としては、これで本件は決着したと考えているという。

トランプ陣営の反論

米軍がアフガニスタンから撤収した2021年8月26日には、カブール近郊の空港で爆弾攻撃があり、米軍関係者13人を含む90人以上が死亡した

トランプ候補は26日、この13人をたたえる追悼式典に出席。無名戦士の墓に花輪を供えた後、遺族らと共に、アフガニスタンとイラクで戦死した兵士が埋葬されている「セクション60」と呼ばれる区画を訪れた。

その後、トランプ候補が遺族らと墓を前に並び、笑顔で親指をたてている様子が撮影された。

墓地職員と陣営スタッフのやり取りは、この際に起きたとされる。

トランプ候補は29日、ミシガン州での支持者集会で経緯を説明。自分は追悼式典の後、遺族に頼まれて「セクション60」の墓の前で記念撮影をしたと話した。

その後、同じ日の夜に「自分が政治をするために墓地を使った」という記事を読んだと述べた。

「(墓地に)行って、一緒に写真を撮ってくれと言われたからそうしたら、選挙活動していたと言われる」と前大統領は述べ、「ただでさえ自分が何かすれば、知れ渡る。そんなのはいらない。そういう宣伝はいらないんだ」と強調した。

米公共ラジオ放送NPRのニュースサイトは27日、墓地職員が「セクション60」での撮影を止めようとすると、トランプ陣営のスタッフ2人がこの女性をののしり、押しのけたと伝えている。

米国防総省関係者は、BBCがアメリカで提携するCBSニュースに対して、トランプ陣営スタッフの一部はプロフェッショナルな態度をとらず、墓地職員を言葉で罵倒したほか、体を使って威圧したと明らかにした。

トランプ陣営のスティーヴン・チャン広報担当は、身体的な接触はなかったと主張し、現場の映像を公表する用意があると反論。陣営は29日に、墓地訪問を撮影した映像の一部を公表したものの、墓地職員とのやり取りの場面は含まれていなかった。

チャン氏は声明で、「私的に依頼したカメラマンが許可を得て敷地内にいたものの、明らかにメンタルヘルス(こころの健康)問題で苦しんでいる匿名の個人が、非常に厳粛な式典の場で、トランプ大統領のチーム関係者を体をもって阻止しようとした」のだと述べた。

チャン氏のこの声明の言葉遣いや、トランプ候補の副大統領候補J・D・ヴァンス上院議員がこの件の報道内容を強い調子で非難し続けたことから、騒ぎはさらに拡大している。

一部の退役軍人団体は、戦没者を敬う最も神聖な場所としてアメリカで広く認識されているアーリントン墓地で、戦死兵の墓をトランプ候補が選挙活動に利用したと、厳しく非難している。

トランプ候補はこれまで繰り返し、ジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領の現政権がアフガニスタンでの事態を制御できなくなり、そのせいで多くの米兵が犠牲になり、家族がつらい思いをしているのだと非難し続けている。

29日の支持者集会でも同様に、「ジョー・バイデンが無能なせいで、(遺族の)子供たちを殺した。あってはならないことだった。カマラが、彼らの子供たちを殺したんだ」と述べた。

撮影をめぐる物議

トランプ候補は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、記念撮影をした遺族のコメントを共有した。

遺族はこのコメントで、「トランプ大統領の公式ビデオカメラマンとカメラマンがイベントに参加することを、私たちは認めていた。追悼の神聖な瞬間が、敬意をもって記録され、私たちが永遠にその思い出を大切にできるように」と述べている。

しかしそれは、連邦法の決まりに違反することだと、アーリントン国立墓地の報道官はBBCに話した。

連邦法は、軍人墓地の敷地内で政治活動や選挙関連の活動が行われることを禁止している。報道官によると、禁止対象にはカメラマンやコンテンツ・クリエイター、特定の政治候補の活動を直接支持する人も含まれるという。

この日の式典には、再選を目指すユタ州のスペンサー・コックス州知事も出席。ユタ州出身でアフガニスタン撤収の最中に殺害されたダリン・フーヴァー二等軍曹の遺族や、トランプ候補と一緒に記念撮影した写真を、ソーシャルメディア「X」に投稿した。

しかし知事は後に、この写真を知事選での支持を呼び掛けるメールで使用したため、厳しく非難された。コックス氏は28日に、「これは選挙イベントではなく、陣営が使うためのものではなかった」、「(メールは)送るべきものでなかった。近く、選挙事務が謝罪を送る」と「X」に書いた

フーヴァー軍曹の墓の隣には、アンドリュー・マーケサノ曹長の墓があり、問題の写真にも写っていた。マーケサノ曹長はアフガニスタンへの6回の派遣を経て、帰国後に2020年に自殺した。

曹長の遺族は、自分たち家族はフーヴァー軍曹の遺族を支えているものの、トランプ陣営のスタッフは「この訪問のためにこの場所で定められたルールに従わなかった」と指摘。墓地を訪れる人たちには、埋葬されているのは「本物の人間」で「尊重し敬うべき」相手だと強調した。

(英語記事 Arlington Cemetery worker 'pushed aside' by Trump aides - Army

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c9v80xy2z2jo


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