2024年12月22日(日)

エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう

2024年8月26日

 福井県池田町水海地区。珍しい地名だが、その場所を訪れるとその理由がわかる。山あいなのに広々とした田んぼが広がっている。この場所にはかつて、川がせき止められてできた湖があり、それが地名の由来になったそうだ。そんな水が豊かな場所で、今年4月「水海川水力発電所」が誕生した。

 出力は199.9キロワット(kW)。固定価格買取制度(FIT)にも認証されたため、kWhあたり34円で売電することができる。現状では、月間370万円の売電収益を予想しており、年間200万円程度を「地域のために使う資金」にする。

 それこそが、この水力発電所がつくられた真の理由なのだ。

否定されたことで心に火が付く

 設計・開発に尽力した富山国際大学の上坂博亨教授は、水海地区出身。小水力発電の専門家であるだけに「水海川でも、水力発電ができるのではないか?」と、前々から考えていたという。

 8年前、小学校の同級生である三ツ本義美さんにその思いを話すと、身を乗り出して賛成してくれた。「何も知らない素人だから、怖いもの知らずで飛びついたということも言えます。ただ、周囲からは『そんなことできるわけがない』と言われたので、逆に心に火が付きました」と、三ツ本さん。

 上坂教授と三ツ本さんに共通するのは、「衰退する故郷をなんとかしたい」という思いだった。2000年以降の20年間で、水海地区の人口は約42%減少して295人となった。小水力発電が実現することで「自分たちもやればできるという自信になる」とともに、自由に使える資金を手にすることができる。

 16年、上坂教授の旧知の小水力コンサルタントの力を借りて、水海川の取水設置ポイントで流量調査を開始。1年間の調査を経て、水力発電をすることが可能であることを確認した。計画に賛同した17人が中心となって勉強会を発足させ、研究、議論を重ねた上で、20年に水海資源活用検討会、21年に合同会社水海水力を設立した。

 ここで資金の確保という難問にぶつかる。必要となるのは4億5000万円。費用の過半を占めるのが土木工事だ。水力発電には「高低差」が必要となる。そのため、取水場所から発電設備のある場所までの傾斜に導水管を通す必要がある。加えて、取水口を川に設置しなければならない。

 もちろん、簡単に銀行が融資してくれる額ではない。そこで活躍したのがかつて役場の勤務経験があり、水海水力業務執行社員の村上信夫さんだ。「詳細な事業計画書を作りました。地域づくりに貢献したいという思いに駆られて、損益計算書、キャッシュフロー計算書など、いろいろなシミュレーションをしました。ただ、やはり大きいのはFITのおかげで収益が見込めていたことでした」。FITが適応される20年間に4億円の融資を返済していくことになる。残りの5000万円は、県と町の助成、賛同者の出資でまかなった。

 7月中旬、小誌取材班が水海川水力発電所を訪れた日は、上坂教授ら地元小学校の同窓会も開催されており、そのメインイベントとして、発電所の見学会も行われていた。

 建屋は2階構造になっていて上に制御盤が並び、下にベルギー製のクロスフロー型水車と発電機が設置されている。水が入ってくると、「ザァー」と水が流れる音がして、増速機によってその音が一段と大きくなる。流量は毎秒0.7トン。ドラム缶に換算して約3缶分の水で発電する。

水海川水力発電所で使用されるベルギー製のクロスフロー型水車(左)と発電機(手前)(WEDGE以下同)

 しばらくすると壁に設置された緑色のランプが回転して、発電が始まったことを知らせてくれる。1年間の設備利用率を75%とすると、年間に約130万kWh(アワー)の発電量となる。

「灯油の使用量が多いことを勘案して、水海地区の年間電力使用量を世帯当たり6000kWh程度と想定すると、水海地区の全108世帯で64万8000kWhとなり、全世帯をカバーしてもまだ余裕のある発電量となります。発電設備の耐用年数は、少なくとも50年あります。きちんとメンテナンスをしていけば100年は持ちます」と上坂教授は話す。


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