高度経済成長期に張り巡らされた日本の水道管。それから半世紀近くたった今、全国では毎年、約2万件の漏水・破損事故が発生するようになった。すべての管路の更新には約140年かかるとされる。
人口減少も急速に進み、水道事業の料金収入は激減している。従来のような〝昭和型〟の維持はもはや限界であり、「水と安全はタダ」という日本人の常識は過去の遺物になりつつある。
こうした厳しい現実を受け止めて、ライフラインである水道をどう維持・管理していくのか。その地域に見合った水道事業を持続可能な形で模索している現場を歩いた。
必要な量の水を、必要な人に
国内外を駆ける「日本原料」
能登半島地震の被災地では今も断水が続いている。石川県珠洲市の宝立浄水場も被害を受けた水道設備の一つで、装置の損傷により浄水量がほぼ半減してしまったという。
ここに可搬型の浄水装置である「モバイル・シフォンタンク(シフォン洗浄砂ろ過装置)」を設置したのが日本原料(川崎市川崎区)だ。同社の野口康一部長は「金沢から被災地まで、車で朝は4時間、帰りは4時間半。所々、道路が崩落しているところもありました」と被災地での様子を話してくれた。
2005年、豪雨に見舞われた宮崎県への水道復旧支援を手始めに、国内外の数々の被災地を救ってきた同社。直近ではウクライナ水道局への技術支援(「【戦地ウクライナでも稼働!】世界に誇る日本企業の技術「モバイル浄水器」、キーウ水道局員視察の現場」参照)も行っている。
水道事業は典型的な設備産業であるため、コンスタントに発生する材料費や人件費、維持管理費の確保にどの事業体も頭を悩ませている。現状の収益構造では持続性が見込まれないとの課題にも日本原料は寄り添っている。
岐阜県恵那市にある久保原浄水場は、地下水と河川表流水の2つを水源として02年に作られ、約20年間稼働してきた。取水した水に含まれるヒ素やフッ素をアルミナによって吸着処理した上で、セラミック膜によるろ過処理を施すことで浄水していた。
しかし、使用していた活性アルミナは販売終了となり、入手が困難になってしまった。さらに、セラミック膜装置も経年劣化により更新が必要となったが、膨大な費用がかかる。また更新後も、膜を維持管理するための費用の工面に悩んでいた矢先、老朽化による機器の故障が発生した。「危機的状況の中、急きょ対応してくれたのが日本原料さんでした」と恵那市上下水道課の小池健一係長は語る。