効果は絶大だった。同社のシフォンタンクの導入により、膜の洗浄や交換に必須だった出費がなくなったのだ。セラミック膜装置と比べると、運転時に人手が必要な場面も限定的に発生するが、前出の野口部長は「職員が肌で現場を感じて仕事を進めることが、水に対して興味を持ち、水道人としての矜持を持つことにつながるはずです」と話す。
コンパクトかつ可搬型というシフォンタンクの強みを生かし、稼働率に見合わない余剰設備の縮小=ダウンサイジングも各地で進める。同社の齋藤安弘社長はこう話す。
「将来的な人口の増減を見据え、必要な場所に必要な数の水処理装置を、フレキシブルに移動できる状態で配備することが必要です。次世代のためにも、最適解の検討と移行は急務なのです」
「第二次日本列島改造」へ
雨水活用の未来描くトーテツ
神奈川県相模原市。橋本駅から30分ほど車を走らせた山道の中に目指す施設はある。
トーテツ(東京都品川区)が手掛ける「水・グリーンインフラ研究所」は、雨水をさまざまな用途に活用・普及していくための実験施設である。
「あと30分くらい車で走り続けたら山梨県なんですよ」と温かく迎えてくれたのは同研究所長の安藤美乃さんと、安藤勇作さん。同社の社員数は約10人ほどだが、そのうちの2人がここで働いている。
現在、国内で使用されている雨水貯留槽は家庭用など、小規模なものが多い。庭での散水や洗車に加え、東京都墨田区など道幅の狭い区域においては、消防車の通行が困難な場所もあることから、消火用水としても重宝されている。
雨水はもともときれいな「超軟水」であり、適切なろ過を経て煮沸すれば飲用も可能だ。非常用水としての用途もあるうえ、茶葉やコーヒーをいれて楽しむ人もいるという。
さらに、農業を救う一手にもなり得る。従来、農業用水路の多くはその地域の自治会に属する住民が自ら管理・維持してきた。だが、農林水産省の統計によれば、23年の農業人口は116.4万人と15年比で約35%減少しており、用水路の管理に携わる人口も減少し続けている。そうなれば、災害などで用水路が被害を受けても、しばらくの間、復旧できないケースも出てくる。
「農業用水を確保できないところは耕作放棄地の対象にもなりやすいです」と美乃さんは話す。そこで雨水を効果的に活用することができれば、農業の維持・振興にもつながるというわけだ。
同研究所に設置されているのは1000トンもの雨水を溜められる地下貯留槽「アクアパレス」だ。1000トンといえば、一般的な家庭用浴槽の約5000杯分に相当する量だ。一般に、槽を地下に設置する場合、車の衝撃や地震時の揺れ、地下水の変動などといった外部からの影響を受けやすい。
そのため、長期にわたり安全性を確保するためには点検・整備が欠かせない。それを踏まえ、アクアパレスは人が中に入り込み、槽内全域を確実に点検・整備できる造りになっている。
長靴に履き替え、小誌記者も内部に入らせてもらうと、貯水できる無数のパイプが所狭しと並び、その名の通り「水の宮殿」とも思える光景が広がっていた。
17年にはインドのチェンナイ市に、水不足の解消などを目的として600トンサイズの同貯留槽を稼働させることに成功している。