2024年12月27日(金)

WEDGE SPECIAL OPINION

2024年3月7日

 昨年11月、川崎市長沢浄水場(多摩区)に、男女4人のウクライナ人が見学に訪れた。案内者が沈でん池などの上に「テロ対策のために覆蓋を設置している」と話すと、「ミサイルにも耐えられるのか?」という質問が飛び、彼らが〝戦地〟から来ているのだと実感させられた──。

ウクライナの国旗カラーにペイントされた「モバイル・シフォンタンク」。日本原料高萩工場でウクライナの技術者たちは1週間の研修を受けた(NIHONGENRYO)

 このウクライナ人たちは、首都キーウの水道局職員だ。ロシアの侵攻で、浄水施設や上水道の配管が破壊された。足元の能登半島地震でも「水」の供給が問題になっているように、ウクライナでも事情は同じだ。しかも、求められているのは「飲料水」。給水車で運搬するだけでは到底間に合わない。

 そこで白羽の矢が立ったのが、日本原料(川崎市川崎区)の「モバイル・シフォンタンク(シフォン式ろ過砂洗浄機)」だ。同社は、水道用ろ過材(主に砂)の製造・販売を手掛けており、全国の浄水場の80%以上に納入している実績を持つ。世界広しといえども、「タップウオーター(水道水)」をそのまま飲める国は多くないが、それを支えているのが、同社の「砂ろ過システム」なのだ。

 通常のろ過材は、砂に汚れが付着することから、7~10年ごとに交換工事が必要となる。洗浄して再利用できればよいが、普通に洗浄するだけだと、汚れが取りきれなかったり、ろ過材自体が壊れたりしてしまうため、それらの課題を克服する洗浄方法が求められていた。また近年、「サンド・ウォーズ(砂戦争)」と呼ばれるように、現在ではろ過材となる「砂」そのものが世界では貴重な資源となっている。

 日本原料が開発したのは「シフォン洗浄」と呼ばれる独自技術。タンクの中にスクリューを入れ、そこで生まれる、揚力、遠心力で渦流を起こすことでろ過材を洗浄していく。ヒントとなったのが「鳴き砂」。踏むときれいな砂の音のみが鳴るのは、砂同士が揉み洗いをしているからだということに気付き、これを応用することで、砂を壊すことなく洗浄することに成功した。

 さらにこの「シフォン洗浄」の仕組みを搭載した「モバイル・シフォンタンク」を開発。装置内部に洗浄システムを搭載しているため、30年間(同社保証)の長期にわたって、そのまま使用することができる。


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