音楽世界大手の米ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)は、1月31日をもって、動画共有アプリ「TikTok」(ティックトック)への楽曲提供契約を打ち切った。音楽業界ではこれまでもYoutube(ユーチューブ)やSpotify(スポティファイ)など、新たなプラットフォームが登場するたびに利益配分をめぐる対立が起きてきた。
しかし、今回の対立は過去とは異なる背景を持っている。クリエイターの〝民主化〟とAI(人工知能)の急速な発展という二つのトレンドが既存の音楽業界を大きく揺るがしている。
TikTokとユニバーサルの決裂
UMGは2月2日、TikTokとの契約終了を発表した。既存の契約は1月31日が期限だったが、更新の合意がまとまらなかったという。UMGのアーティストにはテイラー・スウィフト、BTS、アリアナ・グランデなどビッグネームがずらり。日本国内のアーティストを見てもAdoや椎名林檎、エレファントカシマシなどそうそうたる顔ぶれだ。
契約終了に伴い、アップロードされた動画からの音源削除が進んでいる。実際に確認してみると、「著作権の制約のため楽曲が削除されました」との警告メッセージがつき、無音となった動画が多数見つかった。
歌手だけではなく、作詞家や作曲家がUMGと契約していた場合でも該当するため、影響は広範だ。米メディア・TechCrunchによると、TikTokで公開されている動画の20~30%が音源削除対象になるという。
TikTokは今や世界の流行発信源としての地位を築き上げている。月間アクティブユーザー(MAU)10億人超という膨大なユーザーを抱えているのもさることながら、平均再生時間が1日70分以上という中毒性、ユーザーの好みを学習してリコメンドする能力の高さが強みとなった。
音楽プロモーションの場としても欠かせないプラットフォームだけに、UMGの決断を支持しないアーティストも相当数いるだろう。TikTokは「(UMGは)才能を無料でプロモートし発見してもらう手段である、10億人超のユーザーを持つプラットフォームのサポートから離れることを選択した」と批判している。
実際、TikTokでのプロモーションを優先してアーティストが音楽会社を変更した事例もある。2月9日にリリースされたグウェン・ステファニーとブレイク・シェルトンの楽曲「Purple Irises」は当初、UMGから発売される予定だったが、ワーナーミュージックに変更されたという。
UMGにとっても痛みを伴う契約終了はなぜ決断されたのか。UMGは「なぜ私たちはTikTokに終止符を打たなければならないのか」と題した公開書簡を発表しているが、報酬、AIへの対応、権利侵害やディープフェイクへの対応という3つの理由を提示している。