発刊に際し、第二章『制裁下のモスクワへ』を、全6回の連載にて全文公開いたします。
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私がさらに強い印象を受けたのは、ナターリアがインターネット経由で情報を集めていた事実だった。
日本を含め西側諸国では〝ロシアの高齢者は、国営テレビを見続けているから、政権寄りの考えを持つようになる。若い人はユーチューブなどインターネット上で情報を収集するため、より西側に近い、リベラルな考えになる〟という説明がよくなされる。これは決して間違ってはいないが、現実には高齢者もまた、インターネットから情報を収集している。
ナターリアはさらに、「これを見なさい。あなたも、本当のことがよくわかるはずだ」といって、私のノートに、あるユーチューブ番組のタイトルを書き込んだ。
番組名は「ベソゴンTV」。どんな番組かと思って後で見てみると、「太陽に灼かれて」などの作品で日本でも知られるロシア人映画監督、ニキータ・ミハルコフがホストを務めていた。ミハルコフはソ連崩壊直後にはスターリン体制を批判する作品を作り、海外でも注目されたが、その後は次第にプーチン政権寄りの姿勢を強めていった人物だ。
ベソゴンTVを視聴すると、ミハルコフはやはり、「ウクライナが東部住民に攻撃を仕掛けようとしていた事実を、ロシア軍の特殊部隊は間違いなく察知していた」などと、プーチン政権の主張に沿った話を展開していた。
しかし番組全体では、例えばイギリスの歴史家、アーノルド・トインビーの言葉を用いて番組を進行するなど、単に〝ロシア寄り〟ではない視点であることを強調していた。世界の歴史を踏まえた、国際的な視野で語っているという印象を与えていた。
インターネット上には、政権支持者が好む、ロシア政府の主張に沿った番組があふれているのも事実だ。それらの情報もまた、どこにいてもスマートフォンからアクセスすることができる。政権寄りの考えを持つ人々は、自分の考えに沿う情報を、インターネット上からいくらでも集めることができるのが実態だった。