2024年11月21日(木)

プーチンのロシア

2024年1月12日

 2023年12月6日、米国連邦議会の上院は、ウクライナへの軍事支援法案を51対49で否決した。野党・共和党がウクライナ支援と引き換えに求めていた米国国境での移民流入阻止をめぐって合意に至らなかったためだ。

 1060億ドル(約15兆6000億円)の支出案には、ウクライナ支援のほか、イスラエルと台湾への軍事支援も含まれていた。バイデン政権は、ウクライナへの支援金が間もなく枯渇すると警告していた。

 米国議会によるウクライナへの追加支援拒否は現代国際関係史上最も深刻な事態の一つだといえる。この背後にトランプ氏がいることは誰の目にも明らかだった。

(bankrx/NeoLeo/gettyimages)

 果せるかな、この米国議会の決定はロシアを大いに喜ばせた。翌日のロシアTVでは鬼の首を取ったといわんばかりの様相だった。

 「これでウクライナ戦はロシアの勝利だ」、「米国共和党がロシアを勝利に導いてくれた」、「共和党万歳」という叫び声がロシアTVに充満し、勝利の祝賀ムードだった。後日、情報通のツイート記事によると、ロシアの学校の教科書が一斉に書き換えられ、「2020年の米国総選挙は違法選挙であったため、トランプ氏は勝利を盗まれてしまった」と書かれているという。プーチン大統領にとってはトランプ氏に謝意を伝えることはいとも簡単なことなのだ。

ぐらつく米国の行動

 その3日後、ニューヨーク・タイムズ紙は衝撃的な記事を掲載した。トランプ氏が大統領に再選されれば、米国は北大西洋条約機構(NATO)から離脱し、NATO自体を崩壊させるという記事だ(’Fears of a NATO Withdrawal Rise as Trump Seeks a Return to Power’)。同紙の3人の看板記者が連名で書いた。

 十分な根拠が無ければどの新聞もこの手の記事を掲載することはまず無い。現にこうなるかどうかは疑問がある。しかしこの時点ではそういうダイナミズムが現にあるのだということを同紙は伝えたかったのだ。

 筆者はこれを読んですぐ、日米安保同盟も崩壊すると思った。なおトランプ氏は19年当時もNATO離脱論をやっていた(’Trump Discussed Pulling U.S. From NATO, Aides Say Amid New Concerns Over Russia’)。

 単純化すると、トランプ氏は米国を「孤立化」させようとしている。米国自身が長年にわたり構築してきた「西側自由圏の連帯」などという概念は同氏の視界にはなさそうだ。しかし、米国と西側諸国の運命をトランプ氏が勝手に決められる訳ではない。案の定、ただちに対抗措置が取られた。


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