単純だが明白な事実がある。ロシアが開始したウクライナ戦争の帰趨はロシアという国の将来を決める。そして、ロシアの将来がどうなるかはまず欧州の安全保障に強く影響する。
それだけではない。ユーラシアから極東の安全保障にも強く影響する。もちろん日本をも直撃する。要するにロシアの将来は全球的な地政学に衝撃を与えるのだ。
ロシアは一体どういう国になるのか? 世界にどういう衝撃が走るのか? オランダの国際的な研究所が専門家を幅広く糾合して分析を試みた。
多数の専門家が数次にわたりワークショップ等を開催し、多面的にロシアの近未来の姿に追った。そして浩瀚(こうかん)な報告書をまとめた(’After Putin, the deluge?’ October 2023)
ロシアと世界の6つのシナリオ
この分析では 今後5年間を時間軸として、以下を検討した。
(1) ロシアはどのように変わるか、ロシアは存続するのか。
(2) 大規模な不安定と暴力はどの程度起きるのか。
(3) ロシアは一体どの程度西側と対決するのか、それとも接近してくるのか。
その結果に基づき、 6 つのシナリオを提示している。
1. 不承不承の和解。ウクライナで敗戦し、ロシアのエリート層の諸グループが「宮殿クーデター」でプーチン大統領を追放する。新大統領は西側諸国と合意を結び、プーチン大統領と支持者たちを追放し、限定的な民主主義と経済改革を施行する。
2. 中国の支配を受けるロシア。戦争は何年も続き、終わりは見えない。プーチン大統領は失政により辞任を余儀なくされるが、政権自体は存続し、最終的に後継者が中国政府からの政治的・財政的支援を確保する。ロシアは完全に中国に依存するようになる。
3. 帝国の逆襲。ウクライナに対する西側の支援が減少し、ロシアは戦争に決定的に勝利する。プーチン大統領の人気は急上昇し、かつてないほど権力が強くなる。西側諸国は団結を失う一方で、ロシアは中国をパートナーとして行動する。
4. 新スターリン主義の要塞ロシア。プーチン大統領はロシアを世界的な「のけ者国家」にする。中国、インドなども支援を断絶し、ロシアはほぼ完全に自給自足化する。政権は残忍な弾圧とプロパガンダで統治を続ける。