2024年12月22日(日)

プーチンのロシア

2023年10月6日

 アトランティック・カウンシルに所属するロシア問題の専門家であるマーク・カッツ教授(ジョージ・メイソン大学)は、ウクライナ戦争はプーチン大統領が退陣するまでは終わらないと論じ、退陣後のロシアがどうなるかについて5個のシナリオを提示して解説している(’Post-Putin Russia: Five Potential Pathways’ Mark N. Katz, Jul 4 2023)。

(Nutthaseth Vanchaichana/Kreativorks/gettyimages)

 同教授は抑々プリゴジンの反乱以降、プーチン大統領の政治的立場は弱体化し、何らかの理由で近い将来退陣せざるを得なくなるだろうと論じている。とにかく、大統領はいずれ必ず退陣するのだから、国際社会はそれに備えるべきだという議論だ。

大統領の退陣で起きる5個のシナリオとは?

 第一は「プーチン不在のプーチン主義」だという。後任者がプーチン大統領の正統性を誇示して独裁的統治を進めるケースだ。

 その場合、ロシア領土の一体性は確保され、ロシアは大国としての地位も確保し、親中国の傾向を維持しながらウクライナ戦も継続する。同教授はこれが今のところ、最も蓋然性が高いとした上で、実際の後継者は治安機関出身者になると想定している。

 第二のシナリオは「民主化」だ。この可能性は低いが、プーチン大統領自身が親西欧型の「カラー革命」がロシアで発生することを強く懸念してきた経緯に鑑みると、大統領自身がロシアの民主化はあり得ると見ているはずだと論じている。

 実際、ロシア国民が民主化を求めて蜂起する可能性は皆無とは言えない。さらに教授は国民の自由を抑圧してきた治安機関自体がことによると民主化支援に転じることもあり得るとも論じている。よって可能性は低いが、民主化もポスト・プーチンの形態として備えておくべきだという。

 第三のシナリオは「賢明な権威主義」(Prudent Authoritarianism)と呼ばれるものだ。ロシアでは新しい権威主義的支配者が劇的に政策を変えた事例があるとして、ロシア皇帝アレクサンドル2世(在位1855年-1881年)やアレクサンドル3世(在位1881年-1894年)の例を挙げている。

 新しい賢明な権威主義的指導者はプーチン大統領のウクライナ戦争は大惨事だったと判断し、素早く損切りし、戦争を終わらせ、独裁体制と領土の一体性を維持し、大国ロシアの実態を堅持しようとするだろうと論じている。

 さらに、このような賢明な権威主義者は、西側諸国との関係を大幅に改善して、プーチン大統領の失敗を挽回しようとするという。要するに、ウクライナにおけるプーチン大統領の野望を否定することが、ロシア自身の生存と最終的な復興を確実にする最良の手段だと判断するということだ。

 また、教授は賢明な権威主義的な後継者は、中国との協力を維持することもあり得ると論じている。そうすることでモスクワが西側と中国の双方から利益を得ようとし、ロシアの国際的な機動性を最大化することもできるという議論だ。

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