欧米では議論が進む「プーチン後のロシア」
筆者はこれまで本欄で数回にわたり、ロシアの民主化はいずれは実現するという議論をして来た。今回紹介したカッツ教授の議論はそれを具体的にシナリオ化してくれている。
ロシアの歴史経験に即して「賢明な権威主義」を許容しようという議論には説得力がある。真に賢明であるために何をしなければならないか、それを民主化に繋げる方法論やロシア社会の動態的展開などにも今後は注目して行かねばならない。
それから同教授が中国との関係に特に注意を払って論考を構成している点にも注目したい。ロシアの治安部門の隠れた、そして恐るべき物理的強制力にも注意を払っている点も評価できる。
さらに注目すべき点は、西側社会からの働きかけが重要だとしていることだ。欧州などでは予てから強く行われている議論である。筆者が再三論じてきたことだが、欧州では既に民主ロシアを欧州共同体の当然の一員として、将来の運命を共にしていく決意が示されている(’The EU’s Relations With a Future Democratic Russia’ Wilfred Martens Centre for European Studies, July 2022)。バイデン政権でも既に十分意識されている側面だ(『ロシアに示すべきウクライナ戦争の落としどころ』)。
とにかく、注目すべきことはこの種の論考が国際的に俄然始まった点である。欧米では、公開のシンポジウムでもプーチン後のロシアを巡る議論がされている(’Russia will be 'very aggressive' after Putin | Gen. Lord Dannatt’)。
それを聞いていると、欧米の論者がロシア国内の民主化運動家らとも繋がっていることが窺える。「プーチン後のロシア」を巡る議論は既にロシア国内にも存在し、米欧関係者とも呼応しながら内燃し始めているといえる。
もとよりロシア民主化への過剰な期待は禁物だ。ロシアの治安機関の恐るべき力を侮ることは出来ない。