これだけの負け戦、大ロシア軍はどこへ行ったのか? 民間軍事部隊ワグネルのプリゴジン隊長は弾薬不足を理由に激戦地バフムートから撤退すると宣言し、口汚い表現でロシア国防大臣と軍総司令官を罵倒した。ビデオは世界中に拡散し、大ロシア帝国が誇る軍事組織が弾薬に事欠く事態を世界中が目撃した。弾薬は後日供給されたようだ。
しかしロシア軍兵士の練度は低く、装備や武器は旧式の年代物だという。ロシア兵は60年代のウクライナの古地図を手渡されて戦場をうろついている。もとより士気など高いはずがない。
抑々弱体の軍隊で戦争を始めたのだ。このこと自体ロシアで今起きている混乱と錯乱の証拠だ。
「政治的に従順でいれば楽に暮らせる」というプーチン氏と国民の約束のもとでここまで来た。しかし2023年4月の時点で、ロシアは一人当たり国内総生産(GDP)で世界の63位。ハンガリー、ポーランド、クロアチア、ルーマニアなど、かつてのロシアの配下にあった衛星国に後れを取っている。
屈辱的だ。ウクライナとの開戦後、20万人以上の兵士が死んだ。ウイキペディアによれば90万人以上の生産能力のある国民が国を去った。ロシア経済は国際的な制裁を受け、国家の負債は膨大化し、国は実際上破綻している。
プーチン大統領のロシア大国意識、歴史的な被害者意識、それに起因する無数の判断の過誤。その上、失敗から学習できないシステムで、組織的に総合力を発揮できず、長期的な戦略思考が無く、新しい発想を全く生み出せない。
ロシアがこうなってしまったのは「ロシア政府の中枢が常に恐怖にさらされ、恐怖を通り越して半宗教的な集団エクスタシーに動かされているからだ」とロンドン大学パストーフ博士が解説している(”Regime Change Inside Russia? What It Would Take To Push Putin Out” Cameron Manley、WORLDCRUNCH,March 27, 2022)。わが愛するロシアの純朴な友人たちの能力不足のせいではないと理解したい。
ロシアは崩壊するのか?
ロシア在住の識者によると、ロシアでは今や誰もがプーチン政権が終ると理解しているという。人々は、プーチン体制がもう存在しないかのように、国の将来について議論しているようだ(”How Exactly Could the Putin Regime Collapse?” Leonid Gozman、Nov. 23, 2022)。
問題は、どのように体制が崩壊し、その後何が起きるかだ。今のままではプーチン政権が勝利する道筋は無さそうだ。
国の将来へ共有されたビジョンもない。政治的資源は枯渇している。有為な人材は国外に出た。ロシアは変わらざるを得ない。だがどう変わるのか?