政権の正統性が民意に由来していない時、専制政権側は言論統制をする。しかしそれは現代の情報革命に挑戦することになり、闘いは熾烈になる。そこをWSJ紙は論じ始めた。要するに専制政治側の最も脆弱な側面に切り込んできたのだ。
筆者はこの欄で「ロシアの民主化」の必要性を再三にわたり論じて来たが、WSJ紙は同じことを別の形で論じ始めた。だが「ロシア民主化論」の先行きは不明瞭である。上記の通りロシア問題の専門家たちは簡単ではないと論じている。筆者も同感だ。
ただ、ロシアの民主化を可能にする一つの重要なシナリオは欧米側の働きかけである。周知の通り、スウェーデンの経済学者で世界論壇の指導層の一人であるアンダース・アスランド氏らがロシア支援の新マーシャル・プランの実行をフォーリンアフェアーズ誌で提案している("Putin Is Going to Lose His War And the World Should Prepare for Instability in Russia" Anders Åslund、Foreign Affairs May 25, 2022)。
これは単なる一例だが、ロシアに民主的政権が出来れば現に大規模な経済支援が実行されるだろう。何故ならロシアの民主化自体、世界の安定化に貢献し、西側世界にとって歴史的な前進だからだ。
その上、ロシア人は自国の民主化を狂信と迷妄と血の弾圧から解放される歴史的機会だと捉えるだろう。苦難に次ぐ苦難の歴史を辿ってきたロシア人が今度こそ、運命的な決断をする。西側は賢明な作戦を立ててそれを促して行くべきだ。それに自由民主主義には十分な国際競争力がある。この点は前回拙論で論じたことだ(「G7サミット前だからこそ考えたいロシア民主化の可能性」)。
ユーラシアの盟主を目指す中国
ロシアの民主化に立ちはだかるもう一つの問題は中国だ。中国は5月18~19日、中央アジア5カ国との首脳会議を開催する。明らかにユーラシアの将来に重大な関心を持っていることを示している。
中国はユーラシアの盟主になろうとしているのだ。その為にポスト・プーチンのロシアでも引き続き専制体制が生まれるように工作するだろう。ぐずぐずして下手をするとユーラシア全体が民主化する危険があるからだ。
また、中国は当然上記WSJ紙が指摘した「統治の正統性」の問題が中国にとっては面倒な展開になりかねないことを既に知っているはずだ。WSJ紙に指摘されるずっと前から熟知している問題だ。
中国は駐ロシア大使などを歴任してきた李輝氏をユーラシア問題担当の特別代表に任命し、ウクライナ問題の解決を手始めに動き始めている。要するに北京の外交マシーンはユーラシア全域でトップギアで走り始めているのだ。
中国主導でウクライナ問題を解決し、ロシアの民主化を阻止し、「統治の正統性等のくだらない問題」が国際的な議論の俎上にのぼらないように工作を始めているに違いない。「世界の大国のように行動し始めた中国」という記事が既に出ている(”China Is Starting to Act Like a Global Power” Wall Street Journal March 22, 2023、Jonathan Cheng)。
日本はもちろん、西側自由同盟は賢明な作戦を練って対応するべき時だ。ユーラシア地政学の将来、日本とアジア太平洋の安寧と発展等に直結する問題だからだ。