第四は中国の覇権を受け入れるシナリオである。しかし、この可能性は大きくないという。プーチン大統領に代わる新しい指導者は、よほどの特別な事情が無い限り、西側諸国と関係を強化しようとするから、中国が前面に出る可能性は低いと論じている。
第五はロシアが崩壊するシナリオだ。1991年にソビエト連邦が比較的平和的に15の民族ベースの国家に分裂した。教授はこの延長線上でロシアが崩壊する可能性を長々と論じているが、結論的に「大国ロシア」が崩壊する可能性は低いとしている。
しかも、ロシアの崩壊は膨大な核兵器の所有権の問題を生む。事と次第では壊滅的な危険を生むと論じている。
ロシアはどの道を選ぶのか?
カッツ教授はプーチン政権の終焉後、ロシアがどのような道をたどるのか、現時点では予測できないが、米国を含む西側諸国政府は、ロシアがプーチン大統領の後に民主化の道に乗り出すことを望むのは間違いないと論じ、その可能性を次のように解説している。
「プーチン大統領が民主化運動を抑圧するために構築した治安部隊の強さを考慮すると、ロシアがプーチン大統領の統治から直接民主化に移行する可能性は特に低いと思われる。しかし、「安定した賢明な権威主義」(第三のシナリオ)が出現したら、それはロシアにおける民主主義への移行にとって最良の見通しを提供するかもしれない」
要するに西側が期待するロシアの民主化は「安定した賢明な権威主義」を経由して実現するだろうという議論だ。
西側が発するべき信号
教授はさらに、ロシアが「賢明な権威主義」に到達するまでの間、西側諸国は、プーチン大統領の後継者たちをうまく支援し、プーチン主義の長期化という否定的な道に追い込まないよう出来る限りのことをするべきだと強調している。特にロシアの核兵器に対する中央制御の体制が崩壊しないようロシアと全面的に協力しなければならない。
特に重要な点として、西側は「ロシア軍がウクライナ領土から撤退することを期待しているが、ロシアの解体を求めてはいない」という信号を送るべきだとしている。言い換えれば、西側諸国はウクライナだけでなくロシアの領土保全も支持しているということを明確にするべきだということだ。
さらに重要な点は、西側諸国政府はロシアの北大西洋条約機構(NATO)加盟を期待してはいないが、ロシアが中国との関係で均衡を保つのに必要な強大化には協力する用意があること、そしてロシア政府が中国政府に従属する必要はないことを伝え、安心させるべきであると論じている。
要するに、ロシアの「賢明な権威主義」が将来西側諸国と友好関係を確立するために必要な条件整備、特にロシア領土の保全を保障し、ロシアが大国として処遇されていくこと、欧米がロシア支援に廻ることなどを欧米側はやりつくす姿勢を取るべきだということだ。