5. ワイルド・イースト(西欧社会にとってロシアは東方(イースト)に位置するという観念から出ている表現)。継続的な屈辱と戦場での敗北の後、プーチン政権は正統性を失い、ウクライナ南部と東部から撤退し、ロシアは崩壊し始める。ロシアは、1990年代初期を彷彿とさせる犯罪国家となり、組織的混乱に陥る。
6. ロシア崩壊と核兵器の散逸。壊滅的な軍事的敗北はロシア連邦の崩壊を生み、その後地域軍閥は有力国家モスクワを阻止するために核兵器を強奪する。一部の組織は中国等の承認を受けるが、モスクワは依然として西側に対して非常に敵対的であり続ける。
具体的にどう動くか?
この報告書は上記の結論に到達するまでに、多くの予見や示唆を行っている。その中から主だった論点を列挙してみれば以下の通りである。
まず何よりも政権交代のシナリオに関連して、この報告書は西側諸国がロシアの新たな指導者と関与できる条件について北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)内で既に議論が進行中だとしている。これは当然であるが、重要な記述だ。
欧州は大規模なロシア国内の不安定化や核の拡散問題に備える必要があるからだ。またロシア連邦から独立する可能性のある地方主体を承認するのかどうかという議論も行っている。単に「希望」や「願望」だけでは物事は解決しないので、最良のケースや最悪のケースを想定して準備すべきだと論じている。
その上で、ロシアは長年にわたる権威主義的統治の故、少なくとも短期的には本格的な民主主義国家になる可能性は非常に低いとしている。この作業に参加した全ての研究者・専門家は、プーチン大統領の後継者は支配階級の安全保障関係者のエリート層から現れる可能性が大だとしている。
さらにこの報告書は戦争遂行等の重要事項について各治安機関と軍部の内部で内紛が進行中であるとし、プーチン大統領がいなくなると不安定性が急増すると論じている。その上、プーチン大統領に対する重大な反対は地方のエリートだけでなく、モスクワにいるエリートから生まれてくることもあると指摘している。
さらに、ロシアのビジネス・エリートは資産や自由を失う危険から、今は沈黙を守っているが、プーチン大統領の権力構造が崩壊した場合、自由な市場経済への改革を推進するとみる。それが将来の地政学的な方向性や西側との関係に影響を与えることも議論している。
ロシアと中国の関係についても随所で論じているが、欧米側は基本的な姿勢として露中関係を一枚岩と見るべきではなく、予定調和に亀裂が生ずる事態を注意深く観察し、対応して行くべきだと論じている。
さらに、西側諸国は国境を越えた組織犯罪、難民、武器の流入と流出、ロシアの核兵器の管理を含め大規模な不安定化の危険へ対応するシナリオを事前に検討しておくべきだという点も論ぜられている。
最後に、プーチン政権のほぼ口癖になっている「西側は寄ってたかってロシア政権の崩壊を期して工作している」という非難にも対応する必要があると論じている。
ロシアの行動に影響を与える要素は?
この報告書は今後5年間にロシアに影響を与える要因を項目ごとに整理も試みている。別表はその内容である。