2024年6月16日(日)

プーチンのロシア

2024年1月12日

 しかし、抑々なぜこんなことになるのか? 戦争研究所の分析によれば、クレムリンの中心的戦略は「米国の利益についての米国人の理解を打撃して破壊し、それを変えることで米国の意志を破壊することである」という。西側の援助不足のせいでロシアがウクライナで勝利するとしたら、それは、ロシア側の計略に米国が引っ掛かった結果だというのだ。どういうことか? 

 それはロシアが、米国が自らの利益や価値観に反する行動をとっていることに気付かずに進んでいくように巧みに仕向けているからだという。 ロシア人はそれを計画して実行しているのだ。

 要するにロシアは米国人の現実感覚をネジ曲げることに成功したのだ。 ロシアは米国を操作して、米国が勝てるはずだった戦いにおいて、自分の利益を放棄するよう仕向けたのだ。つまり米国人はロシア人に騙されたのだ。 だからトランプ氏のような人間に米国人が振り廻されていると云うことだ。

 この論文はさらに、この作戦は今後、中国、イラン、その他の米国の敵対国が学ぶであろう教訓であり、そのこと自体が米国にとっては恐るべき事態である。 現在および将来、アジア、中東、さらにはヨーロッパにおける米国の安全保障は、米国が米国の戦略的利益と価値観の堅固なつながりを堅持し、それらの利益認識を外部から操作してかかろうとする外国の試みの餌食にならないことが不可欠だと論じている。 そして、ウクライナがロシアの侵略から自国を守ることに専念し続ける限り、米国にとって最善の行動は、ウクライナの勝利を支援する道にコミットすることだ、と結論付けている。

 これは抑々孤立化に向かう米国思想の動きに正面から向き合い、それを押しとどめようとする重要な議論である。 戦争研究所は問題の究極的論点を抉り出している。

 私見ではもちろん、ロシアの勝利は保証されていない。国際法違反の侵略が無罪で罷り通る訳には行かない。プーチン氏は国際司法裁判所(ICJ)に出廷しなければならない。

 侵略が報酬を受けるという事態は受け入れられない。 しかし現実は容易ならざるモノがある。肝心の米国がトランプ氏のロシア宥和論に引きずられてしまっているからだ。

ウクライナ戦争の行方は日本の安全保障に関係する

 この論考はウクライナ戦争の行方はアジアの安全保障環境に大きな影響があることを示している。 戦争研究所はロシアが勝利する展開においては、アジア・極東用に配備されているステルス戦闘機を欧州戦域に動員する必要性があると数回論じている。

 ウクライナ戦争の帰趨はアジアの安保体制というより日本自身の安全保障に強い関係があることを明らかにしている。 米国を孤立主義の方向に向かわせようとする勢力の動向に日本はよくよく目を凝らすべきだ。

 そして日本自身はどう行動するべきかについて議論を始める時が来ているようだ。 ウクライナのゼレンスキー大統領は米国内の冷淡な姿勢を受けて「侵略者には最後まで自力で戦う」と述べている。 日本や西側は最後までウクライナを支援するべきだ。

 最後に付言しておきたいが、戦争研究所の論考ではロシアが世界秩序を変えようとしているとも論じている。 これも日本および自由世界にとって軽視できない展望だ。

 しかし、プーチン氏の専制独裁的なロシアが将来長く続くとは想定出来ない。 それにロシアの専制独裁が主導する世界秩序が上手くいくとはとても思えない。 一方、ロシアという国は制度として民主化しなくても欧米と融合的に協力する国柄に変わって行く可能性は現に十分ある。

 日本を含め欧米側は当然その方向でロシアに働きかけるであろう。 あらゆる機会を捕らえてそうするだろう。 国際社会は今回の戦争研究所の議論を咀嚼して、ロシアとの建設的な関係構築に努力するべきだ。 表面化していないだけで現にそういう流れが生まれてきていると期待したい。

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