2024年11月22日(金)

プーチンのロシア

2024年1月12日

 米国議会は12月14日採択された24年度の国防権限法案(NDAA)に、大統領がNATO脱退を決める際、議会との事前協議を義務付ける条項を盛り込んだ。これはティム・ケイン(民主党)、マルコ・ルビオ(共和党)の両上院議員が共同で提案したものだ。 トランプ氏のやりたい放題は許さないということだろう。

 米国議会がトランプ氏の危険性を正しく認識し、素早く対応した。日米安保体制との関係でも非常に重要な動きだ。しかし、この措置でもトランプ氏が大統領としてNATO離脱を決めれば阻止できないとする議論がある。

 今やこれまでの自由民主同盟の盟主であった米国の行動はぐらついている。 余程しっかりと注意していく必要がある。 世界はそういう時代に入ったのだ。 日本は絶対に目を離すことは出来ない危険なダイナミズムが生まれている。 そう考えて行動するべきだ(『激変する世界情勢と日本の安全保障政策 ―バイデン政権の対外戦略と日本の重点課題―』石川 卓、防衛大学校教授) (’NATO and Donald Trump’ The Editorial Board, Dec. 18, 2023 6:37 pm ET)。

 それから、米国議会が拒絶したウクライナへの援助についても事態を挽回し、手当てする方策が検討されている。米欧側はロシアによるウクライナ攻撃開始で凍結したロシア資産の活用を検討中だ。

 ハーバード大学法学部で最優秀学生だったオバマ元大統領の恩師としても著名な憲法学者ローレンス・トライブ教授まで乗り出してきて、凍結資産の活用は法律的に可能だと論じている有様だ(’The REPO Act: Confiscating Russian State Assets Consistent With U.S. and International Law’ Yuliya M. Ziskina, October 12, 2023)。 なお、ロシア中央銀行の資産で西側諸国によって凍結された資産は3000億ドル(約41兆円)にのぼるとされている('U.S. intensifies push to use Moscow’s $300 billion war chest for Kyiv' The Washington Post October 11, 2023)。

「ロシアの勝利はあり得る」戦争研究所の警告

 12月14日、ワシントンにある戦争研究所(Institute for the Study of War、ISW)は「ウクライナ戦争で米欧側がウクライナを喪失したら高価な代償を払う必要が生ずる」という強い警告を発信した。 ロシアへの親近感を隠さないトランプ氏の言動、彼の影響力下にある米国議会の特定勢力がウクライナへの追加支援を拒否したという現実。この重要な局面で、米国の防衛・安全保障問題の専門家集団が米国内のロシア寄りの空気を強く警戒し、それに対抗する冷静な分析を米国世論と国際社会に示した。 

 二部にわたる非常に浩瀚で構築的な論考’THE HIGH PRICE OF LOSING UKRAINE’ Dec 14, 2023 - ISW Press)(’THE HIGH PRICE OF LOSING UKRAINE: PART 2 — THE MILITARY THREAT AND BEYOND’ Dec 22, 2023 - ISW Press)の趣旨はこうだ。

 米国のウクライナ支援に困難が生じ、ウクライナを失ってしまうとどうなるのか? ロシアが勝利し、欧米側が敗退するとどうなるのか? 今やロシアが勝利することは十分可能だ。
 米国が軍事援助を削減し、欧州も追随すれば、ロシアが勝ち、ウクライナ全土はロシアに征服される。そうなれば、ロシア軍が黒海から北極海に至る全線でNATOと対峙することになる。
 米国情報筋によると、ロシアは初戦の不手際を挽回し、人的、物的損失を補い基盤を強化している。その結果、勝利するロシア軍は戦闘経験を持ち、軍勢も拡大している。時間をかけて装備を交換し、確保した豊富な経験を活かして一貫性を再構築し、先進的な防空システムを構築するだろう。
 ロシアは今回のこの軍事投資により1990年代以来初めて、主要な通常軍事力でNATOに対して脅威をもたらす可能性がある。ロシアはすでに野心的な戦後の軍拡計画に取り組んでいて、日月をかけずにやり遂げるだろう。西側の制裁が弱まるにつれ、ロシア経済は徐々に回復する。
 こうなると、ロシアの軍事的脅威は拡大し、元来中国抑止用である米国のステルス戦闘機を欧州方面にも
配備する必要が生ずる。米国はロシアが効果的な防空体制を再確立できないようにするために、ヨーロッパで多数のステルス戦闘機を維持しなければならなくなる。
 このことは台湾に対する中国の侵略を抑止する米国の能力を著しく低下させる可能性がある。その上、これらの防衛策のコストは西側にとって天文学的なものとなる。
 米軍がロシアか中国のどちらか、ましてやロシアと中国の両方に対処するための十分な準備や態勢が整っていない場合には、非常に危険な時代を招来する可能性が高い。 要するに、米国は台湾と他のアジアの同盟国を守るために十分な航空機をアジアに維持するか、NATO同盟国に対するロシアの攻撃を抑止することを重視するかという「恐るべき選択」を迫られる可能性が高い。
 従って、継続的な西側軍事支援を通じてウクライナが現状の戦線を維持できるよう支援することは、米国にとって、ウクライナの敗北を許すよりもはるかに有利であり、コストもかからない。一方、ロシアを打倒しないで、紛争を「凍結」することは、ウクライナの戦いを支援し続けるよりも悪い。
 なぜなら、それはロシアに、ウクライナを征服し、NATOと対峙するための新たな戦争に備えるための時間とスペースを与えるからだ。 一方、ウクライナの勝利を支援し、その後の再建を支援することは、ウクライナが最終的に同盟に参加するかどうかに関係なく、ヨーロッパ大陸で最大かつ最も戦闘効果の高い友軍をNATO防衛ラインの最前線に置くことになるだろう。
 ウクライナはアフガニスタンではない。ウクライナは高度に工業化されており、近代的な都市部と高度な教育を受けた人口を擁し、自国の軍隊を支えるのに十分な規模の経済を持っている。 しかも、西側企業との合弁事業や独自の軍事産業を確立しようとしている。 勝利したウクライナはNATOの安全保障と西側経済に大きく貢献することができる。

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