2024年12月7日(土)

プーチンのロシア

2024年3月3日

「そこにあるナチズム」展に見た
プーチン政権による「ストーリー」

 なぜ、多くのロシア人がプーチン大統領の言うことを信じて、ウクライナ人を〝ナチス〟だと言ってはばからないのか。ソ連時代は同じ国の国民で、多くの人が相手国に親類がいる。そのような間柄で、なぜそのような考えに至るのか。日本人の私には、理解しようとしても、どうしても不可解に感じられてならなかった。

 そのような疑問を抱いて取材を進めるなか、ロシアに滞在する日本人のビジネスマンから「これを見ると、ロシア人がなぜそのような考えに至ったのか、よくわかると思う」とアドバイスされ、5月下旬にモスクワ市内で開催されていた、ある展示会を訪れた。

 場所は、市の西部にある「戦勝記念公園」にある博物館だった。地下鉄駅からタクシーに乗り換え、公園を訪れると、壮麗な噴水の先には天を突くような巨大なモニュメントがそびえていた。

 この博物館は、普段は第二次世界大戦におけるソ連軍のナチス・ドイツ軍への勝利をたたえる内容の展示を行っている。その目的は「歴史の真実を守る」ことだという。

 チケットを買って中に入ると、多くの小学生らの姿が目に入った。引率していた教師に聞くと、新型コロナウイルス禍の行動規制がなくなり、政府が補助金を出して地方から子供たちを招いていたのだという。「こんなに小さな子供たちが、ソ連の〝栄光〟を学ばされているのか」と、無邪気に古い戦車の展示の周辺で騒ぎ立てる小学生を見て、複雑な思いに駆られた。

 常設展示を行う巨大な部屋の奥に、特別展を行うための小規模な展示会場があった。

 掲げられたタイトルは「そこにあるナチズム」。入口には、ワイシャツ姿の普通の男性が立っていることもあれば、なぜか防弾チョッキを着た治安機関員の女性が立っていることもあった。緊張感が漂っている事実は、覆い隠しようがなかった。

「そこにあるナチズム」展で展示されていた、ウクライナ東部から持ってきたと思しきブランコと、亡くなった子供を思わせる天使の紙細工。特別展全体が、「ウクライナ軍の非道さ」を強調する内容だった(筆者撮影)
「ナチズムの残虐行為」との文字の下には、ウクライナ東部での民間人の犠牲者と思しき写真(中央のモザイク箇所は母子の遺体と思しき写真、モザイクは編集部が加工)とともに、「アゾフ大隊」関連と思われる品々などが展示されていた(筆者撮影)

 中には、年齢層もさまざまな多くの人が来場していた。「取らざるを得なかった手段」と題した入口のパネルには、ウクライナ東部の住民がロシア軍兵士らを歓迎している写真が何枚も添えられ、こう書かれていた。

「2022年2月24日、ロシアは特別軍事作戦を開始しました。その目的はウクライナの〝非軍事化と非ナチス化〟にあります」

「プーチン大統領は作戦の目的についてこう語っています。〝キエフ(キーウ)の政権によって8年間にわたり嘲りを受け、集団虐殺の危機にさらされてきた(ウクライナ東部の)人々を救うためだ〟と」

「8年間」とは、ウクライナ東部での紛争が始まった2014年から、2022年までの期間を指していた。〝ウクライナ東部に住むロシア系住民が、ウクライナ政府により非道な扱いを受け続けてきた。その住民を救うことこそが、この特別軍事作戦の目的だ──〟。この主張こそが、プーチン政権が自国内でウクライナ侵攻を正当化する、最大の根拠になっていた。


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