2024年12月4日(水)

WEDGE SPECIAL OPINION

2024年2月26日

 ロシアのウクライナ侵攻が3年目に突入する。欧米諸国のウクライナへの支援疲れが鮮明になる一方、ロシア側も30万人超の死傷者を出し、戦況は膠着状態に陥った。

プーチン氏は1990年代の混乱を経験した世代から大きく支持されている(REUTERS/AFLO)

 長期間に及ぶ戦争を続けられるかは、いずれの側も国民の意思がカギとなる。独裁的な手法で国を統治するプーチン政権であっても、国民の支持がなければ戦争継続は容易ではなく、〝ロシア国民が何を考えるか〟は、ウクライナ侵攻の趨勢を左右する重要な要素の一つとなる。

 その意味において、3月15〜17日に行われるロシア大統領選は、極めて重要な意義を持つ。有力な反体制派への弾圧が行われ、プーチン大統領の圧勝が確実視された「出来レース」ではあるが、それでも国民は自らの投票を通じ、政権の行動に〝加担〟することになる。仮にウクライナ侵攻を批判的に思っていても、プーチン氏に1票を投じることでその責任の一端を担うことになり、ロシア国民はいわば「ルビコン」を渡らされることになる。

 ロシアの独立系の調査機関「レバダ・センター」によれば、ウクライナ侵攻開始以降、プーチン氏はほぼ8割の支持率を維持している。ウクライナ侵攻に対しても、2023年10月時点で76%が「支持」と答え、特に55歳以上の年齢層では82%に上る。

 なぜ、プーチン氏の行動は中高年層から圧倒的な支持を受けるのか。背景にあるのが、ソ連崩壊後のロシア社会、経済での未曽有の混乱の記憶だ。

 ソ連崩壊後の急進的な市場経済への移行により、エネルギー関係などごく一部を除く多くのロシアの産業は立ち行かなくなり、ハイパーインフレで通貨ルーブルは紙くず同然となった。年金に頼っていた高齢者らの生活は崩壊した。1990年代にロシアに語学留学をしていた筆者も、真冬の極寒のモスクワの路上に立ち尽くしながら、必死に日用品を売る老人たちや、道端で息絶えている人の姿を何度も見た。

 そのような苦しい時代の記憶を持つ中高年層のロシア人の多くは、強権的であっても、その混乱から脱した2000年以降のプーチン氏による統治を支持する。

 ウクライナ侵攻開始後の22年5月にモスクワを訪れた筆者に対し、高齢の市民らはこう口々に訴えた。

 「ウクライナは、第二次世界大戦が終わった直後から、ずっとナチスだったのです」

 「私は戦争に反対で、プーチン大統領を支持している。そして、プーチン大統領は、戦争に反対している!」

 もちろん、このような荒唐無稽な声が全てではなかった。だが、30代前後の若者らの多くは、街中で「ウクライナ情勢についてどう思いますか」と問いかけても、「ノーコメントです」「その問いには何も答えたくない」と言って、足早に立ち去っていった。


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