ソ連が崩壊した要因はさまざまあるが、その一つは主要輸出産品である原油価格の低迷だった。今回の経済制裁も、当時と同様の経済的なパニックが引き起こされるのではないかと、多くの国民は懸念した。
しかし、2022年のロシアの国内総生産(GDP)成長率はマイナス2.1%にとどまり、23年の成長率はプラス2%超にV字回復したとみられている。主要因は、欧米諸国が手を引いたロシア産原油などを、中国やインドなどが大量に購入して買い支えたためだ。軍需品の生産など、短期的な成長をもたらす投資拡大も後押ししたとみられているが、表面的には経済回復が鮮明になっている。
欧米のブランド品が手に入りにくくなっても、第三国を迂回して輸入されたり、日本の自動車メーカーが生産をやめても、その工場でロシア企業が中国企業と共同生産を開始したりしている。多くのロシア人に「欧米に頼らなくても生活できる」という感覚が生まれていても不思議ではない。
さらに、ロシア経済は、質が悪くても耐久性が高いカラシニコフ自動小銃に例え「カラシニコフ経済」と呼ばれることがある。国民もまた、そのような経済環境に慣れている側面がある。
プーチンへの投票で
連帯責任を負わされるロシア人
また、プーチン氏が仮に政権を去ったとしても、より民主的な大統領が現れる可能性は低い。
ソ連崩壊後の経済混乱を経験した、海外在住の50代のロシア人の知人は「ロシアには多くの民族がいるから、強権的な指導者でなければ国をまとめられない。国土がばらばらにならないよう、見張らなくてはならないんだ。(ソ連の民主化を進めた)ゴルバチョフは米国に買収されたんだ」と語った。強権統治を受け入れるロシア人のメンタリティーは、半ば諦めに近い。
ロシアが将来、どのような国になるかは見通せない。しかし、われわれは今回のウクライナ侵攻で改めて浮き彫りになった通り、ロシアは日本と大きく異なる資質を持っている国であるということを認識する必要がある。
3月の大統領選でプーチン氏に投票し、プーチン氏への明確な信任という「ルビコン」を越えた場合、ロシア国民は、このウクライナ侵攻に明確な〝連帯責任〟を負う。それにより国民の間では、さらなる虚無感が広がる一方で、それを機に一層、戦争を積極的に支持する風潮が生まれる可能性も否定できない。そのようなロシアと対峙することは、さらなる困難が伴うが、われわれは彼らと向き合うための戦略の構築を決して諦めてはならない。