2024年12月12日(木)

WEDGE SPECIAL OPINION

2024年2月26日

 一方、声にならない批判の声を上げる若者らもいた。

 「今は何かを言うには、あまりにも危険すぎます。ロシアが経済制裁を受けるのは、当然のことでしょう」

 「何のためにこんな戦争を始めたのか、〝普通の人〟にはまったく理解ができない。自分の子供が、だまされて戦争に連れていかれたと訴えている、シベリアのお母さんの動画をユーチューブで見たよ」

 一対一の、ごく限られた場面で、若者らは本音を語ってくれた。その声は切実であり、実際に戦場に駆り出される懸念を打ち明ける少年もいた。

覆い隠された〝本音〟
プーチンはロシアを救っていない

 多くのロシア人が持つ、「プーチン大統領が1990年代の経済・社会混乱から、ロシアを救った」との考えはどれほど妥当なのか。

 今年3月20日に発売される拙著『空爆と制裁』(ウェッジ)において筆者は、海外に在住する30~40代のロシア人らに取材を重ね、彼らの声を紹介している。海外在住者でなければ、ある程度自由に意見を表明することが困難との考えからだった。

 その一部を紹介したい。なお、彼らは全員、安全性などを考慮し、仮名であることをご理解いただきたい。

 「90年代の混乱から、プーチン氏がロシアを救ったとの見方には同意しません。彼は単に、適切な時と場所にいただけで、一時的に多くの人々にとり、領土や政治、経済の安定を提供したに過ぎないからです。プーチン氏は逆に、2010年代半ばから、権力と影響力を維持するために、それまでロシアが国際政治や経済の分野で達成したものを打ち消し始めたと思います」(オクサナさん 30代、女性)

 「2000年代は1990年代と比べ、犯罪率も低下したのは事実です。それでも、組織的な犯罪などが減ったかどうか定かではないです。ロシア社会の急激な変化の基盤をつくったのは、(旧ソ連の)ゴルバチョフ大統領でした」(アンドレイさん 40代、男性)

 なぜ、実際に多くのロシア人がプーチン氏を支持しているのか。アンドレイさんはこう続けた。 

 「最大の理由はメディアです。テレビから発せられるメッセージというのは、『あなたは、自分を(西側から)守らなくてはならない』というもの。だから、ウクライナに軍を送れというものなのです。誰もが、そのような内容に疑問を持っています。だけど、テレビを見る人々もまた、自分の人生を肯定したい。自分たちの人生を心地よいものにしたいし、自分たちがやっていることを、〝良いもの〟だと感じたい。とてもシンプルなんです」

 そしてアンドレイさんは「ロシアでの生活は、全ては〝恐怖〟を基盤に成り立っています」とも証言する。他の取材相手らも、ほぼ同様の指摘を行った。ある人は、「多くのロシア人にとって、住む町で唯一の職場である工場などで働き続けるためには、プーチン氏に投票しなければならない。さもないと、解雇されるか、給与を剝奪される危険にさらされる」と指摘した。

 「その話題(ウクライナ侵攻)については、何も語らないようにしている」。モスクワ取材中に何度も聞いたそのような言葉の裏には、じっと息をひそめながら、嵐が過ぎ去ることを待とうとする、ソ連時代に培われた庶民の知恵があった。

 ただ、政権は国民の懸念がどこにあるかということも、明確に把握しているように思われる。今回、欧米諸国が発動した経済制裁への対応を見れば、それが分かる。


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