2024年7月16日(火)

BBC News

2024年7月15日

ドナルド・トランプ前米大統領が演説中に銃撃されて負傷した暗殺未遂事件を受けて、ジョー・バイデン大統領は14日、国民に冷静を求める演説をホワイトハウスの大統領執務室から行った。右耳を負傷した前大統領はこの日、国民の「団結」を呼びかける声明を出し、翌日からの共和党全国党大会に備えてウィスコンシン州ミルウォーキーに入った。

バイデン大統領は約6分半の演説で、「昨日ペンシルヴェニアの集会で起きたドナルド・トランプへの銃撃は、一歩引いて落ち着くように私たち全員に呼びかけるものだ」として、「この国の政治の温度を下げる必要がある」と求めた。

バイデン氏がホワイトハウスの大統領執務室から国民に向けて演説するのは、就任以来3回目。前回は昨年10月のハマスによるイスラエル攻撃を受けて。1回目は2023年6月で、連邦政府の債務上限引き上げを連邦議会に働きかけるためだった。

執務室からの演説は、特に深刻な事態について大統領が国民に語りかける際にのみ行われるのが通例となっている。

バイデン大統領は事件について「まだ動機が分かっていない。(容疑者の)意見や所属が分かっていない。誰かの協力や支援を受けていたのか、誰かと連絡を取り合っていたのかどうか、まだ分かっていない」と述べたうえで、「暴力は決して回答にならない」と強調。アメリカ政治で繰り返されてきた大統領をはじめとする要人の暗殺や暗殺未遂に言及し、「このような暴力はアメリカにあってはならならない。どのような暴力も絶対にあってはならない」と述べた。

「この国の政治的発言は熱くなりすぎている。温度を下げる必要がある」、「アメリカでは私たちは意見の違いは投票によって解決する、銃弾によってではない」とも、大統領は呼びかけた。

さらに、「アメリカを変える力は常に、国民の手にあるべきだ。暗殺者になろうとする者の手ではない」、「どれだけ強い信念を抱いているとしても、決して暴力に訴えてはならない」とも述べた。

「私たちは意見が合わないかもしれないが、お互いに敵ではない。ご近所同士だし、友人同士だし、同僚同士、市民、そして何より、私たちはお互いに同じアメリカ人だ」と大統領は強調し、「アメリカの民主主義で意見の相違は避けがたいことだ(中略)しかし、政治は決して文字通りの戦場であってはならないし、ましてや、殺害の場などであってはならない」と述べた。

死亡男性は家族を守ろうと

バイデン大統領はさらに執務室からの演説であらためて、銃撃事件で死亡したコーリー・コンペラトア氏(50)を追悼。「彼は夫で父親で、ボランティアの消防士で英雄だった。銃弾から家族を守ろうと、家族をかばった」のだと述べ、コンペラトア氏と家族に気持ちを寄せるよう国民に求めた。

大統領演説に先立ち、ペンシルヴェニア州のジョシュ・シャピロ知事は記者会見で、コンペラトア氏が家族を銃弾から守るため、とっさに家族に覆いかぶさったのだと話した。

同州警察は、事件現場の会場で負傷した2人はデイヴィッド・ダッチ氏(57)とジェイムズ・コーペンヘイヴァー氏(74)だと氏名を公表。共にピッツバーグ周辺在住で、重傷を負ったものの容体は安定しているという。

トランプ前大統領「団結」を強調

暗殺未遂事件で右耳を負傷したトランプ前大統領は同日夜、共和党全国党大会が開かれるミルウォーキーに到着した。息子のエリック・トランプ氏が動画をソーシャルメディアに投稿した。

党大会では前大統領が共和党の大統領候補に指名されるほか、共にホワイトハウスを目指す副大統領候補が発表される見通し。

トランプ前大統領は14日、事件後初のインタビューに応じ、米紙ワシントン・エグザミナーに対して、共和党大会で予定している演説は事件を受けて、バイデン大統領を攻撃するものではなく、「まったく違う内容の演説になる」と話した。

「この国をまとめる機会で、その機会を与えられた」とも前大統領は述べた。

さらに、自分が撃たれたのだという「現実」をようやく「実感し始めている」のだとも話した。

これに先立ち前大統領は、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に声明を投稿し、支持者の「思いと祈り」に感謝した。

「ありえない事態になるのを防いでくれたのは、ひたすら神様だけだ。我々は恐れない。むしろ、悪を前にしてたくましく信じ、対抗し続ける」と前大統領は述べたうえで、「負傷した人たちの回復を祈り、恐ろしいことに殺されてしまった市民の思い出を心に抱き続ける」とも書いた。(太字は原文ですべて大文字で強調されている)

さらに前大統領は「団結して立ち続ける」ことがこれまで以上に大事だと強調。「私はこの国を本当に愛していて、皆さんを愛している。今週ウィスコンシンからこの偉大な国に向かって語り掛けるのを、楽しみにしている」と述べた。

妻のメラニア氏も同日、声明を発表。夫を守ったシークレットサービスや警察当局に感謝し、犠牲者の家族を思いやったうえで、「私の夫を、人間味のない政治マシーンだと認定した化け物が、ドナルドの情熱を消し去ろうとした(中略)夫の人生の中核、彼の人間性が、政治マシーンの下に埋没してしまった。私がこれまで良い時も悪い時も一緒に過ごしてきたドナルドは、寛大で思いやり深い人です」と書いた。

メラニア氏はさらに、「どの政治家も一人一人全員、愛する家族のいる男性や女性」なのだとして、「再び団結しましょう」と呼びかけた。

シークレットサービスは14日に記者会見し、共和党大会は「国家的な特別警戒行事」になると説明。「連邦政府が特定の行事に対して指定できる、最大級の厳戒態勢」を実施すると明らかにした。

前大統領の暗殺未遂事件に至ったペンシルヴェニアの会場での警備について、シークレットサービスを批判する声も出ている。

共和党からはバイデン氏非難が相次ぐ

これに対して共和党内からは、バイデン大統領が前大統領を厳しく非難し続けたことが今回の暗殺未遂につながったという声が相次いでいる。

J・D・ヴァンス上院議員(オハイオ州選出)は事件後、「バイデン陣営はこれまで、ドナルド・トランプ大統領がいかに独裁的なファシストで、何としても阻止しなくてはならないのだと主張し続けてきた」、「そういう物言いが直接、今回の暗殺未遂につながった」と述べた。

今月8日付の米政治サイト「ポリティコ」記事によると、バイデン大統領は同日、大口献金者との内々の電話会談で「自分の仕事はひとつ、それはドナルド・トランプを倒すことだ。それには自分が最適の人間だと確信している。なのでもう討論会のことを話すのはやめよう。今はもう、トランプに照準を合わせる時だ」と話したとされている。

この報道が今回の暗殺未遂につながったと、複数の共和党関係者が非難している。

マイク・コリンズ下院議員(ジョージア州選出)はソーシャルメディアに、「ジョー・バイデンが命令した」のだと書いた。

マーシャ・ブラックバーン上院議員(テネシー州選出)も、「ほんの数日前、バイデンはトランプに照準を合わせるべき時だと発言した。そして今日、暗殺未遂があった」と13日夜にソーシャルメディアに書いた。

バイデン氏は執務室からの演説では、こうした非難には言及しなかった。

これについて民主党重鎮のティム・ケイン上院議員(ヴァージニア州選出)はBBCに対して、暗殺未遂事件をバイデン氏や民主党のせいにしようとする共和党関係者の発言は「おぞましい」と非難。

「こうした銃による暴力という病が、なぜアメリカで作り出されているのかを分析する必要がある。我々だけが(銃犯罪において)世界で突出している。アメリカには実に良いところが実にたくさんあるが、自分に正直に鏡を見つめないとならない」

「いったいどうやって20歳が、これほどの被害をもたらす殺傷力のある自動式の銃を手に入れられるというんだ」と、ケイン議員は強調した。

過激発言や陰謀論がオンラインに飛び交う

米連邦捜査局(FBI)のポール・アバティ副長官は14日、記者団への電話会見で、脅迫的な内容の投稿が事件以降、増え続けていると認めた。

アメリカでの偽情報を取材するBBCのマイク・ウェンドリング記者によると、過激な内容が頻繁に投稿される掲示板「4chan」には、銃撃犯に関する陰謀論や事実と異なる内容の投稿が相次いでいる。メインストリームのソーシャルネットワークにも、大量の偽情報が次々と投稿されている。

超党派研究団体「アドバンス・デモクラシー」は、通信アプリ「テレグラム」上の極右チャンネルや、極右ウェブサイトで、報復を呼びかける投稿を追跡しているという。

極右団体「プラウドボーイズ」の支部によるチャンネルには、トランプ前大統領に敵対する全員を「DCの往来で吊るすべきだ」などと、首都ワシントンでの公開処刑を呼びかける投稿もあった。トランプ支持者たちの掲示板には、「今こそ戦争だ」、「共存したくないのは向こうの方だ」などと報復を求める投稿が相次いでいる。

(英語記事 Biden urges America to 'lower temperature' after Trump shooting / Republicans accuse Biden of inciting Trump shooting

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c87rvmnm15ko


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