すでに多くの実績を残している。「モバイル」と銘打っているように、移動と設置が容易であるため、2018年の西日本豪雨など、日本全国での災害復旧、小規模浄水設備の代替として利用されている。また、フィリピンのセブ島をはじめ、台風などによる災害に遭った諸外国にも展開している。同社の齋藤安弘社長はこう胸を張る。
「1台で日量1000トンの浄水を供給できる装置は他にはありません。台風シーズンになる初夏から秋にかけては、毎年10台(1万トン/1日)の『モバイル・シフォンタンク』をストックするようにしています。災害によって国内の浄水施設に被害が出た場合、ほぼ100%復旧に参加しています。災害が起きないことに越したことはありませんが、社会的使命だと思って取り組んでいます」
太平洋を望む場所で
現場実習
川崎の浄水場を後にして、ウクライナ人たちが向かったのが、日本原料の高萩工場(茨城県)だ。ここで1週間、「モバイル・シフォンタンク」の運用方法を学ぶのだ。座学から実習まで、その様子はビデオカメラで撮影されていた。彼らが母国に持ち帰って振り返ることができるようにするためだ。日本原料から技術者をウクライナに派遣するという案もあったが、危険性を考慮して見送られることになった。
「とにかく驚いたのは、彼らの真剣さです。こんなに水道のことを真剣に学ぼうとしている人たちがいることに感動しました。特に男性2人は、そもそも戦争状態にあるウクライナでは出国が禁止されている立場です。それでも、大切な水道に関わるという理由で特別に出国が許可されたので、なおさら強い気持ちを持っていたと思います」(齋藤社長)
ウクライナ人と一緒に小誌記者もモバイル・シフォンタンクが稼働する様子を高萩工場で見せてもらった。水が下から巻き上がり砂が巻き上げられていく。ものの数分で洗浄は完了した。工場の敷地内には、泥水のため池がある。「ここの水もろ過して飲めるのか?」という質問に、日本原料の技術者が「もちろん、飲めます。後ほど、試してみましょう」と話すと、ウクライナ人たちはお互いの顔を見合わせて驚いていた。
「ウクライナでも、浄水場でつくられる水は飲用可能ですが、配水設備が老朽化しているため、家庭の蛇口から水を出すと濁っていたりすることがあるので、そのまま飲用するには適していないそうです。そのため、日本ではタップウオーターでも飲用可能ということを理解してもらうことからスタートしました」(齋藤社長)
日本滞在は、あっという間の1週間ではあったが、彼らは「夜がこんなに静かなのは久しぶりだ」とリラックスしていたそうだ。そして「一度、太平洋に入ってみたい」と、真冬の海に事も無げにつかったそうだ。「心のリフレッシュにもなったのではないか」と齋藤社長は振り返る。時間が経つにつれて、彼らの表情にも余裕が生まれ、ジョークが飛ぶようなこともあったが、最終日にはキーウに大規模ドローン攻撃があったことが伝わり、現実に引き戻されたようだったという。
フーシ派の攻撃でスエズ運河が使えず、モバイル・シフォンタンクの到着が遅れているが、キーウで3台、南部オデーサで1台のシフォンタンクが稼働する予定だ。研修の最終日にはすべて自分たちで装置を稼働させるなど、技術の習得は無事に終わったが、実際の運用ではネット回線を使ってリモートで支援が行われる。日本の中小企業の技術がウクライナの人々の役に立つ日がもうすぐやってくる。