2024年5月16日(木)

Wedge2024年4月号特集(小さくても生きられる社会をつくる)

2024年4月17日

 また、地下に貯留槽を設置しておくことで洪水被害対策としても効果を発揮できる。局地的な豪雨に見舞われても、その多くを地下に一度貯留し、時間差で流すことができれば災害が生じる可能性も低減できるのだ。「流せば洪水、貯めれば資源」(村瀬誠氏)という言葉があることも美乃さんは教えてくれた。

 美乃さんの実父であるトーテツの髙井征一郎社長は、ため池などの「オフサイト貯留」から、地域ごとに水を確保する「オンサイト貯留」へ移行する必要性を訴えている。給水点を一極集中でなく小規模分散型へ。雨水がその有効な手段の一つとなり得るのは間違いない。

役場×住民で出した共通解
矢巾町が育んだ住民の主体性

 水道料金の改定といえば、住民からの反発も受けやすい。しかし、岩手県矢巾町は住民側から「改定すべき」という声が上がった、稀有な地域として知られる。17年4月請求分より水道料金・下水道使用料の改定に至ったが、その実現には職員・住民相互の理解と良質な危機感があった。

 その立役者となったのは同町政策推進監兼未来戦略課長を務める吉岡律司さんだ。当時、吉岡さんは水道事業所(現上下水道課)の係長としてこのプロジェクトに携わっていた。

吉岡律司さんは「将来を生きる人」の視点から現在の選択の是非を判断する必要性も訴える

 国が水道のあるべき将来像についてまとめた「水道ビジョン」を04年に公表し、これを受け同町も06年にやはば水道ビジョンを策定したが、吉岡さんは「これだけでは住民の理解を深められないことに課題を感じていた」という。

 ビジョン策定の当時から水道料金の改定を見込んでいたわけではなかった。自治体によっては、「住民の理解は得られないから」と、改定に踏み切る方法もあるだろう。

 しかし、吉岡さんは違った。「行政の言う『住民の理解が得られない』というのは、住民が知るべき情報を知らせる努力もしないで言っているだけという側面もある。行政の言い訳に過ぎません」。

 住民の理解促進と合意形成のためにできることを考え、吉岡さんはいくつも手を打った。中でも特筆すべきは「やはば水道サポーター」の活動だ。08年度から始めたこの活動では、公募により集った住民が月に1回ワークショップに出席する。水道事業について学びながら意見を出し合い、職員と課題認識を共有し、解決策を考えてきた。

 住民は当初、「話を聞きに来た人」だったが、やがて「参加者」になり、最後には「当事者」になっていったという。「それを顕著に感じたのは東日本大震災のときでした。発災後、地域の方々が不安に駆られている様子を見て、『矢巾の水道は大丈夫だから』と話して回り、安心させてくれたサポーターがいたんです。それを聞いたときには感動して涙が出ました」。

 最終的には、住民自らが水道料金の値上げと水道管の更新の必要性を訴えるに至り、料金改定を議会に提案したという。

 今でも約50人のメンバーが所属している。コロナ禍での自粛期間などもあり、サポーターとの対面での活動は長らく休止していたが、24年度からは本格的に活動を再開する予定だ。それに向け、浄水場の見学会を今年2月28日に企画・運営すると聞き、小誌記者は見学会に参加させてもらった。


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