最大の課題は後継者の確保
三ツ本さんは「きれいな水を取水するために1週間に1回は取水口の掃除もしなければなりませんし、そもそも20年後は、われわれ設立メンバーの多くがどうなっているか分からない。だから後継者の確保が急務になります。水力発電所の収益を地域づくりに使っていくことで、地域の理解を深め、この取り組みに参加したいという人を増やしていきたい」と、将来の課題を挙げてくれた。
そんな思いを形にしたのが、水海資源活用検討会が中心になって、今年4月にまとめた『水海 区民の参考書』だ。「本当は、教科書にしようかと思ったんですが、それだとちょっと偉そうかなと思って」と、三ツ本さんは笑う。地区の歴史に始まり、集落のルールが「必ず守ってほしいこと」「できれば守りたいこと」「昔からある慣例や風習で参考にしてほしいこと」など、分けて記述されている。子どもたちや、新たに住む人には大いに参考になるはずだ。一方で、子どもたちが地区に望むことの記述もある。「田楽能舞が受け継がれているのは水海の良いところだが、変わってほしいのは、もっとお店を建ててほしいことです」。これこそ、老若男女で水海のことを考えていくという決意の表れでもある。水力発電の収益を活用してこの参考書も5年ごとに改訂されていく予定だ。
三ツ本さんは発電設備を眺めながら「やっぱり出来上がった時には、『俺たち、やったぞ!』という気持ちになりました」と振り返る。上坂教授は「彼は農業を基本にしながら、土木工事から郷土芸能の振興までなんでもします。そうした存在が地域にとっては大事なのです」と教えてくれた。
地元をこよなく愛する人たちが生み出した小水力発電。日本全国には、小水力発電に適した場所がたくさんある。水海地区のように自分たちの手で電気を起こし、地域づくりの活動資金を手にするという新しい地域再生モデルが広がることを期待したい。