2024年11月22日(金)

エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう

2024年8月26日

最大の課題は後継者の確保

 三ツ本さんは「きれいな水を取水するために1週間に1回は取水口の掃除もしなければなりませんし、そもそも20年後は、われわれ設立メンバーの多くがどうなっているか分からない。だから後継者の確保が急務になります。水力発電所の収益を地域づくりに使っていくことで、地域の理解を深め、この取り組みに参加したいという人を増やしていきたい」と、将来の課題を挙げてくれた。

水海川小水力発電所の上流に位置する取水場所。木の葉や枝が溜まるため、週に1回の清掃作業が必要になる

 そんな思いを形にしたのが、水海資源活用検討会が中心になって、今年4月にまとめた『水海 区民の参考書』だ。「本当は、教科書にしようかと思ったんですが、それだとちょっと偉そうかなと思って」と、三ツ本さんは笑う。地区の歴史に始まり、集落のルールが「必ず守ってほしいこと」「できれば守りたいこと」「昔からある慣例や風習で参考にしてほしいこと」など、分けて記述されている。子どもたちや、新たに住む人には大いに参考になるはずだ。一方で、子どもたちが地区に望むことの記述もある。「田楽能舞が受け継がれているのは水海の良いところだが、変わってほしいのは、もっとお店を建ててほしいことです」。これこそ、老若男女で水海のことを考えていくという決意の表れでもある。水力発電の収益を活用してこの参考書も5年ごとに改訂されていく予定だ。

 三ツ本さんは発電設備を眺めながら「やっぱり出来上がった時には、『俺たち、やったぞ!』という気持ちになりました」と振り返る。上坂教授は「彼は農業を基本にしながら、土木工事から郷土芸能の振興までなんでもします。そうした存在が地域にとっては大事なのです」と教えてくれた。

取水場から発電所までは、このようなパイプを通じて送水される。これよって生み出される落差が発電には必要となる
水車を通った水は、発電所建屋の横から再び川に戻される。まさに循環型エネルギーそのものだ

 地元をこよなく愛する人たちが生み出した小水力発電。日本全国には、小水力発電に適した場所がたくさんある。水海地区のように自分たちの手で電気を起こし、地域づくりの活動資金を手にするという新しい地域再生モデルが広がることを期待したい。

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Wedge 2024年9月号より
エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう
エネルギー確保は総力戦 日本の現実解を示そう

ロシア・ウクライナ戦争の長期化により、世界的潮流であった「脱炭素」の推進に〝黄信号〟が灯り始めている。 各国ともに自国のエネルギー確保に奔走しているが、なかでも脱炭素社会の実現を主導して進めようとしていた欧州は、侵攻後、世界中から液化天然ガス(LNG)をかき集め、それによりガス・LNGの価格は一気に高騰した。 影響を受けたのは、化石燃料依存度の高いグローバルサウスなどの国々である。「なりふり構わず」の姿勢から、欧州が掲げた脱炭素という〝美しい理念〟とはいったい何だったのか、疑問に感じる読者も多いだろう。 そうした状況にあっても、資源小国日本の危機感は薄く、国のエネルギー政策は迷走を続けている――


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