スティーヴン・マクドネル BBC中国特派員
中国・珠海で、体育施設のゲートは閉ざされていた。競技場の中と、その周りは真っ暗だった。
この場所で数時間前に、男がスポーツタイプ多目的車(SUV)で乗り込み、大勢をはねた。数十人が死亡し、さらに大勢が負傷した。
BBCが現場に到着した時、フェンスの向こう側では複数の警備員が動き回っていた。記者を見張るように指示されていたようだ。
警備員の一人が私たちに近づき、「記者か」と質問した。どうしてそれを聞くのかと私が聞き返すと、「ただ、状況を理解するためだ」と向こうは答えた。
この人とほかの警備員たちは、私たちを監視しながら、こちらを撮影し、電話をかけ始めた。
ゲートの外では、事件後の様子を見ようと大勢が行きかった。しかし、現場の様子よりも私たちに注目する人たちもいた。十数人のグループだった。
女性が周りに声をかけ始めた。「見て。外国人だ。外国人だ」。
まもなく、この女性と一緒にいた男性が私たちの取材を、強引に妨害し始めた。私をつかんで、叫んでいた。
今回のような事件が中国で起きると、現地の中国共産党幹部はしばしば、人を集め、激怒する地元住民のふりをさせる。そして、外国人記者を妨害し、報道させないようにする。
当然ながら、そのようなことをしたところで報道は止まらない。ただ中国の印象を悪くするだけだ。
中国の李克強前首相が昨年10月に亡くなった時にも、前首相の自宅前にこうした共産党に忠実な集団が派遣された。その場を訪れた報道陣は、取り囲まれ、怒鳴られ、押され、暴行された。
李前首相の死去は、いきなりで予想外だったから共産党にとって都合が悪かったというだけではない。李氏はかつての党内リベラル勢力の、最後の一人だった。だからこそ、党にとって不都合だったのだ。これで共産党は完全に、習近平国家主席に忠誠を誓う勢力に独占されたのだと、李氏の死にはそれを知らしめる効果があった。
けれども、政界の重大ニュースでなくても、同じようなことは行われる。
私たちは先月、男が刃物で無差別の人を刺殺した上海のショッピングモールを訪れた。9月30日の夜に起きた悲惨な事件の、数時間後のことだったが、あらゆる証拠は事件現場から完全に消し去られていた。事件の翌朝、ショッピングモールは完全にいつも通り、営業を再開していた。警察が現場保存するための立ち入り禁止テープもなければ、犠牲者のために手向けられた花も消えていた。
こうした説明しがたい無差別襲撃事件の多くが、模倣的な犯行だというのは理解できる。今回の事件はショッキングな死者数を出したとはいえ、特異なものではない。
それでも中国当局はしばしば、こうした不都合な出来事はひたすら、できるだけ速やかに消えてなくなるよう、素早く収束させたがる。
私たちが珠海の襲撃現場の外で妨害されてから数時間後、何台もの警察車両がやって来た。現場対応をより効果的にするためだ。
多くの住民も集まっていた。ろうそくに火を灯し犠牲者を追悼するためだ。ソーシャルメディアで共有された動画には、複数の病院で大勢が献血をしようと並ぶ様子が映っていた。
習主席は今後このような事態が起きないよう、社会問題に対処するよう当局に求めている。
それでもまたしても、なぜ人はこのような途方もない恐ろしい行動に駆り立てられているのか、中国の人たちはあれこれ考える羽目になっている。だが、その答えを見つけるのは、非常に難しい。
(英語記事 When horror hits China, the first instinct is shut it down)