ドナルド・トランプ次期米大統領は13日、政権人事の発表を続けた。その中でも、自分を強く支持してきたものの司法行政の経験がないマット・ゲイツ下院議員(42、フロリダ州)を司法長官に指名したことが注目されている。
国務長官には取りざたされていたように、かつては対立したこともあるマルコ・ルビオ上院議員(53、フロリダ州)を指名。国家情報長官には、民主党から共和党にくら替えし、トランプ氏支持を明確にしてきた州兵出身のタルシ・ギャバード元下院議員(43)を指名した。
前日には、州兵出身で行政経験のないFOXニュース司会者のピート・ヘグセス氏を国防長官に指名したことが、話題になった。
司法長官には支持者を指名
トランプ次期大統領は、ゲイツ下院議員を司法長官に指名。「マットは政府の武器化を終わらせ、国境を守り、犯罪組織を解体し、司法省に対してひどく粉々になったアメリカ人の信頼と自信を回復させる」と、ソーシャルメディア「トゥルースソーシャル」に書いた。
これを受けてゲイツ下院議員は「トランプ大統領の司法長官として務めるのは光栄なことだ!」とソーシャルメディア「X」に書き、議員を辞職した。
マイク・ジョンソン下院議長(共和党)はBBCに、議員の辞表を受理したと話した。下院議員が閣僚に就任するには、議員を辞職したうえで上院に承認される必要がある。
ジョンソン議長は、後任の下院議員を決める補欠選挙についてすでにフロリダ州のロン・デサンティス知事(共和党)に連絡したと明らかにした。来年1月には後任議員が決まってほしいと、議長は述べた。
ゲイツ氏は2023年に下院議長選びで共和党内が分裂した際、ケヴィン・マカーシー前議長を受け入れず造反し、トランプ氏を候補に擁立しようとするなど、共和党内でも物議をかもしてきた。
ゲイツ氏は、未成年との性行為や性的人身売買、薬物使用、選挙資金の不正使用、贈賄などの疑いについて司法省が一時捜査したほか(不起訴)、下院倫理委員会が調査を続けている。本人は一切の疑惑を否定している。
ゲイツ氏は、フロリダ州の有力政治家だった父を持ち、同州議員から連邦下院議員となった。フロリダ州の弁護士資格は得ているものの、司法行政の経験がないこともあって、その指名については共和党の議員団からも適性を疑う声が出ている。
共和党のケヴィン・クレイマー上院議員(ノースダコタ州選出)は米CBSニュースに対して、上院での指名承認手続きの一部として、下院倫理委の調査についてもゲイツ氏は追及されるだろうと話した。
ゲイツ氏の指名について、カマラ・ハリス副大統領の選挙陣営は支持者へのメールで、「ドナルド・トランプは自分の言いなりになる、自分に忠実な顔ぶれを政権に入れるという約束を、その言葉通り果たしている」と、ゲイツ氏の司法長官指名を批判した。
「(トランプ政権は)自分たちの仲間を守るために(司法省を)武器化する。私たちは、復讐(ふくしゅう)と報復をもくろむトランプの計画が実行されるのを阻止しなくてはならない」と、陣営は書いた。
国務長官にはかつてのライバルを指名
アメリカの外交トップとなる国務長官については、このところ予想されていた通り、ルビオ上院議員が指名された。
トランプ次期大統領は声明で、「マルコは大勢に尊敬されているリーダーで、自由を強力に擁護してきた。この国を力強く代弁し、同盟諸国にとって真の友人となり、敵の前で決して屈しない恐れ知らずの戦士になる」と書いた。
この発表を受けてルビオ議員はソーシャルメディア「X」で、「国務省を率いるのはとてつもなく大きい責任で、トランプ大統領に信頼されて光栄だ」と書いた。
さらに「国務長官として、大統領の外交課題を実現するため毎日働く。トランプ大統領のリーダーシップのもと、我々は力を通じて平和を実現し、常に何よりもアメリカ人とアメリカの利益を最優先する。アメリカ上院の同僚議員たちの支持を得ることを、楽しみにしている。それによって、大統領が1月20日に就任した時点で、国家安全保障と外交政策のチームがすでに固まっているようにする」と、ルビオ氏は書いた。
ルビオ議員は上院情報委員会の副委員長で、外交委員会の委員でもある。イランや中国に対しては「タカ派」とみなされているほか、ウクライナでの戦争についてはウクライナを支持する姿勢を示してきたものの、戦争は「決着させる」必要があるとも発言してきた。
ルビオ氏とトランプ氏は2016年の大統領選で共和党の候補指名を激しく争い、時にお互いを鋭く非難しあった。特に移民問題について対立することが多く、トランプ氏がルビオ氏を「ちびっこマルコ」と呼ぶ一方でルビオ氏はトランプ氏の「小さい手」を嘲笑した。
しかし、今年の大統領選ではルビオ議員はトランプ氏を支持し、陣営のために遊説して回ったほか、一時は副大統領候補としても取りざたされた。
両親はキューバ出身。2010年に上院に初当選した。
民主党からくら替え…情報長官に
トランプ次期大統領はさらに国家情報長官に、やはり自分を強固に支持してきたギャバード氏を指名。ギャバード氏は「X」で、「アメリカ国民の無事と安全保障と自由を守るため、あなたの閣僚として仕える機会に感謝します」と次期大統領に伝え、「仕事開始を楽しみにしている」とも書いた。
米領サモア出身のギャバード氏は、ハワイ州の民主党の連邦議員を2013年から2021年まで務めた。2020年大統領選で民主党予備選に出馬し、2022年10月に離党したのち、2024年に共和党員となり、トランプ氏を支持した。
下院議員としては、バラク・オバマ政権の中東政策を批判したり、2016年大統領選ではヒラリー・クリントン氏ではなく無所属のバーニー・サンダース上院議員を支持したりした。大統領選出馬のため、下院議員としての任期満了をもって2021年に議会を離れた後は、妊娠の人工中絶やトランスジェンダーの権利、国境などについて、保守的な姿勢を打ち出すようになった。
注目される国防長官候補
この発表に先立ち次期大統領は12日、国防長官にFOXニュース司会者で、米陸軍のミネソタ州兵としてイラクやアフガニスタンで戦闘経験があるピート・ヘグセス氏(44)を指名すると明らかにした。軍隊勤務の後は複数の政治団体を経てFOXニュース出演者になった。公職経験のないヘグセス氏の指名は、与野党の間で物議をかもしている。
トランプ氏は「タフで頭がよくて、アメリカ第一を本当に信じている」、「ピートが指揮をとれば、アメリカの敵は警戒態勢をとる。この国の軍隊は再び偉大になる。アメリカは決して引き下がったりしない」とたたえた。トランプ氏も、公職をまったく経ないまま2017年に大統領になった。
米メディアによると、ヘグセス氏は第1次トランプ政権期の2019年、アフガニスタンで民間人を殺害するなど戦争犯罪を問われた米兵に恩赦を与えるよう、大統領に働きかけたという。
トランプ氏はさらに、ヘグセス氏の著書「The War on Warriors(戦士への戦争)」に言及。「この国の戦士たちがいかに左派に裏切られたか、明らかにしている」と評価した。
プリンストン大学とハーヴァード大学で学位を得ているヘグセス氏は、アメリカ軍とその幹部の間に「ウォーク(リベラル寄りの価値観)」政策が広まっているとして、さまざまな場でこれを徹底的に批判してきた。
「軍にとって地球上で一番ばかげたフレーズは、『我々の多様性が力だ』というものだ」と今月もポッドキャストで発言していた。
トランプ氏は選挙中、進歩的な政策を推進する軍幹部の更迭を公約していた。ヘグセス氏は国防長官として、それを実行する可能性がある。
複数の共和党幹部がヘグセス氏の指名を歓迎するなか、トム・ティリス上院議員(共和党、ノースカロライナ州選出)はAP通信に「興味深い」人選だと述べた。トミー・タバーヴィル上院議員(同、アラスカ州選出)は「検討する」必要があると話した。
民主党では、下院軍事委員会のアダム・スミス筆頭委員が、国防長官の職は「新人用のポジションであってはならない」と批判した。
エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党、マサチューセッツ州選出)はソーシャルメディアで、「(FOXの週末番組の)司会者の一人だというのは、国防長官にふさわしい資格ではない」、「ドナルド・トランプのこの人事によって、私たちの安全は損なわれる。この指名は拒否しなくてはならない」と書いた。
(英語記事 Matt Gaetz quits House after he is picked by Trump for attorney general role / Trump names Fox News host Pete Hegseth as defence secretary pick )