2024年11月19日(火)

BBC News

2024年11月19日

サム・フランシス、ジェニファー・マキアナン BBCニュース

イギリスのキア・スターマー首相は18日、主要20カ国(G20)首脳会議(サミット)が開かれているブラジル・リオデジャネイロで中国の習近平国家主席と会談し、両国の「強固な関係」の重要性を強調した。

イギリス首相と習主席の直接会談は、2018年以来となる。両国の関係はこの6年余り、悪化を続けてきた。

スターマー首相は、現在拘束されている、香港メディア界の大物で民主化活動家の実業家、黎智英(ジミー・ライ)氏の健康状態が「悪化している」との報告を懸念していると述べた。

また、国際的な安定、気候変動、経済成長など「相互協力分野」を特筆し、そうした分野においてこれまで以上にビジネス面で協力する必要性にも言及した。

スターマー首相は会談の冒頭で、「私たちはすでに合意した通り、お互いを尊重し、一貫性のある丈夫な関係を望んでいる。可能な限り、予想外の展開は避けたいとも思う」と述べた。

さらに、「イギリスは法の支配を重視する、予測可能で一貫性のある主権国家として、行動していく」と付け加えた。

これに対し習主席は通訳を介して、両国は相互尊重と開放性を互いに約束すべきだと発言。「中国とイギリスには、貿易、投資、クリーンエネルギー、金融サービス、医療、お互いの国民の心身の状態向上など、さまざまな分野で協力できる大きな余地がある」と話した。

非公開で行われた会談の議事録によると、スターマー首相は、世界的な安定、経済協力、貿易、そして化石燃料から再生可能エネルギーへの移行に向けた取り組みなどは、英中両首脳が共通の責任として協力するべき事柄だと述べた。

スターマー首相は、気候変動を重視する姿勢を示した。英首相官邸の報道官は、特にドナルド・トランプ次期米大統領による環境対策縮小が予想される中、首相は世界的な取り組みについて中国の支援を求めていると述べた。

しかし首相は、イギリス政府のアプローチは「常にイギリスの国益に根ざしているが、中国に対しては予測可能な現実的なパートナーになる」と強調した。

一方、中国がウクライナにおけるロシアの戦争を軍事的に支援し、それをイギリスをはじめとする西側諸国が批判していることを背景に、スターマー氏は香港や人権、ウクライナにおけるロシアの戦争など、意見が一致しない分野について「率直かつ誠実に対話」したいと述べた。

今回の会談は、今年7月のイギリス総選挙で労働党が勝利した後、8月に行った電話会談に続くもの。スターマー首相は今回、北京またはロンドンで包括的な二国間会談を行うことを提案している。

両首脳はまた、来年にもレイチェル・リーヴス英財務相が北京を訪問し、中国の何立峰国務院副総理と経済および金融分野での協力について話し合うことでも合意した。

イギリス最大野党・保守党のプリティ・パテル影の外相は、「首相がイギリスの国益を力強く擁護しなければ、世界における我が国の地位が弱体化する恐れがある」と述べた。

パテル氏はさらに、建設的な対話は重要だが、首相は「香港で施行されている国家安全関連法の抑圧的な性質や、黎氏のようなイギリス国民の安全、健康、福祉について、私たちの懸念をもっと強く訴えるべきだった。黎氏は釈放されるべきだ」と批判した。

「スターマー氏は対中関係をリセットするつもりのようだが、その一環で、イギリスの懸念事項について習主席からどのような保証を得たのか明らかにしなくてはならない」とも、パテル氏は述べた。

中国との緊張関係と協力関係

ブラジルでの会合に先立ち、スターマー首相は中国のような経済圏と関わりを持つことが重要だと述べていた。また先月には、デイヴィッド・ラミー外相が、中国の王毅外相および丁薛祥副総理と北京で会談した。

習主席が前回会ったイギリスの首相は、テリーザ・メイ氏だった。メイ氏は2018年1月の訪中時、イギリスと中国の関係は「黄金時代」を迎えていると歓迎した。

しかしそれ以来、新疆のイスラム系少数民族ウイグルや、香港の民主化活動家などへの中国の対応などをめぐり、英中関係は悪化を続けた。

昨年には保守党政権のリシ・スーナク首相(当時)は、中国は「我々の経済安全保障にとって最大の国家による脅威だ」と述べた。

しかしスーナク氏も現政権と同様、気候変動や世界経済などの問題について中国と関与していく必要があるとも述べた。

英王立国際問題研究所「チャタムハウス」の中国専門家、ユ・ジエ博士は、6年にわたり凍結状態にあった英中関係を融和させるには、G20の場で行われた今回の首脳会談が「極めて重要」だと指摘。外交関係は緊張していても、貿易協定の締結が視野に入っているかもしれないと話した。

「双方の発表から判断すると、前向きな空気での話し合いだったようだ。しかし具体的な内容となると、厄介な問題についてはまったく合意に達していないように見える」と博士は指摘。さらに、双方の取り組みは、アメリカの圧力に左右される可能性があると警告した。

トランプ政権下でのアメリカの対中政策は「タカ派」的になるとの予想のもと、「もしアメリカが、イギリスに中国政策でアメリカと足並みを揃えるよう、ことさらに圧力をかけるつもりなら、それはイギリス政府にとってかなり難しい問題となる」とも、博士は述べた。

「ウクライナへの支援強化」を優先とスターマー氏

リオデジャネイロでのG20サミットに向かう途中、スターマー首相は記者団に対し、「ウクライナへの支援強化」が自分にとって最優先議題だと述べた。

首相官邸はサミットに先立ち、ロシアに勝利を許せば「計り知れない結果」を招くことになるとして、首相が他のG20諸国にウクライナへの支援強化を促す予定だと説明していた。

ウクライナでは先週末、ロシアによる大規模なミサイルおよびドローン(無人機)攻撃が起きた。また、この紛争は間もなく1000日目を迎える。

こうしたなか、アメリカがウクライナに供給している長距離ミサイルについて、ロシア国内への使用を承認したとの報道が出ている。

長距離ミサイルはこれまで、ウクライナが自国領内のロシア占領地域を攻撃する際にのみ使用が認められていた。

イギリスはウクライナに長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」を供給している。国防当局者や閣僚らはかねて、ウクライナがロシア国内の標的を攻撃するためにこうしたミサイルを使用できるようにすべきだと主張していた。しかし、単独で行動するつもりはなく、ホワイトハウスの考えが変わるのを待っていた。

スターマー首相は、ウクライナのミサイルに関する「作戦の詳細について話すつもりはない」と述べた。

G20には、世界の経済大国19カ国とアフリカ連合(AU)および欧州連合(EU)の代表らが参加している。

しかし、その場にいないトランプ米次期大統領の存在が、サミットに影を落としている。

トランプ氏は同盟国に対して、中国に対して積極的な姿勢を取るよう呼びかけているが、もしアメリカに入ってくる中国製品に公約通りの60%の関税を課した場合、世界的な貿易戦争を引き起こす可能性がある。

今回のサミットは、世界のリーダーたちが意見を交換し、トランプ氏のホワイトハウス復帰に備える最初の機会にもなっている。

(英語記事 We want 'strong' UK-China relationship, says Starmer

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cvgw04y4979o


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