これら潜水艦のミサイルは、北極圏を通過して米国にもたらされる唯一の実質的な脅威であり、北洋艦隊は米国の主要な諜報活動の対象となっている。米国、カナダ、欧州の同盟国はいずれもロシアを第一に懸念している。
今回の北極戦略で、米国は中国と北極圏の太平洋隣接部分を過度に強調し、ロシアと欧州北極圏に関するはるかに差し迫った安全保障上の問題を犠牲にするリスクを冒している。
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真意は露中協力への懸念
上記の論説は、米国防総省による最新の北極戦略が、北極における中国の「脅威」を過度に強調し、ロシアの脅威を軽視していると批判しているが、この批判は当たらない。米国防総省は13年、16年、19年、24年と4回にわたって北極戦略を発表しており、その中で本年の「戦略」は、確かにこれまで以上に中国の動向に多くの紙面を費やしているが、決して北極におけるロシアの軍事力強化を軽視しているとは言えない。
「戦略」はむしろ、北極における中国のプレゼンスが現時点でなお限定的であることは前提として、特にロシアのウクライナ侵攻以降、露中協力が急速に進展していることから生じる脅威について強調している。
中国による北極への関与は包括的かつ長期戦略に基づくものであるが、実際に関与を深めるに当たってはロシアとの協力が不可欠である。ところが北極においてロシアは「既得権者」、中国は「部外者」であり、長らく中国にはその機会が訪れなかった。07年に中国は北極評議会のオブザーバー資格を申請したが、他のメンバー、特にロシアの反対が大きく受け入れられなかった。
中国にとってロシアの実質的協力が得られる重要な機会は、これまでに二度あった。その一つが10年代中頃の北極圏エネルギー開発を巡る中露協力の進展であり、中国資本がロシアによる北極の天然資源開発に深く食い込んでいった。この頃から露中両首脳間の共同声明などで、北極を対象とした中露協力が言及されるようになる。
17年の習近平訪露の際の共同声明には、「北極地域における露中間協力の強化」が明記され、併せて「北極海航路の利用の発展」が言及された。このような中で、13年に中国は北極評議会のオブザーバー資格が承認された
もう一つの、非常に重要な契機がロシアのウクライナ侵攻である。ロシアが「前例なき」制裁の対象となり、グローバル・レベルの地政学的対立激化の契機となったウクライナ侵攻は、北極における露中協力を政治主導で進展させることとなった。