侵攻翌年の23年3月、習近平主席が訪露した際、プーチンは北極海航路の利用を露中協力の文脈で位置づけた上で、その具体化のための「合同作業体」を設立する用意があると表明した。実際、中国による北極海航路の利用は大きく進んだ。
インドを使い揺さぶりをかけるロシア
北極における露中協力は法執行機関間の協力にも及んだ。23年4月にはロシア保安庁と中国海警の間で「海洋法執行機関協力の強化に関する了解覚書」が署名され、続いて北極での露国境警備隊の演習「北極パトロール2023」にオブザーバーながら中国海警が参加した。その半年後の23年10月には、露国境警備隊と中国海警の船舶4隻がベーリング海から初めて北極海海域に入ったことが米沿岸警備隊によって確認されている。
他方、上記の論説にあるように、北極における中国の地位がロシアの意思に大きく依存していることも事実である。これは中国の北極への関与の重要な脆弱性の一つであり、ロシアはこの状況を、対中関係において一方的に不利にならないようにうまく利用しようとしている。
その一つがインドとの協力である。北極への関与について、現時点でインドは中国に大きく水をあけられているが、ロシアからすれば協力相手を複数もつことは中国に対する牽制という意味でも歓迎すべきことである。
インドのモディ首相は19年のプーチンとの首脳会談において、チェンナイとウラジオストックを結ぶ東方海上回廊(IEMC)の構築を提案した。さらに本年7月、5年ぶりに行われたモディ・プーチン会談後の共同声明では、IEMCの実施に取り組む用意があることが明記され、その際には「北極海航路の活用を重視」することが添えられた。
北極を巡る露中協力の効果と限界、脆弱性と西側の政策の焦点は、インドを含む3カ国間のパワーバランスの中にも見出すことができるだろう。