2024年11月5日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月29日

 2024年9月28日付のウォールストリート・ジャーナル紙は、北極圏のスヴァールバル諸島は、主権はノルウェーにあるが加盟国は自由に経済活動等ができるという特殊な地位にあり、今日それが中露両国の軍事的拡大に利用されているとする解説記事を掲載している。

(dikobraziy/gettyimages)

 スヴァールバル諸島は今日、中露が北極圏の貿易ルートを支配し、この地域での軍事プレゼンスを拡大しようとする試みの最前線となっている。かつてはノルウェーの一部だった同諸島は1920年の条約で、主権はノルウェーにあるが、ソ連を含む加盟国が資源開発や研究を行うことは可能とされてきた。しかし近年、ウクライナ侵攻をめぐって西側諸国との緊張が高まる中、この仕組みは中露両国が北極圏での足場を強化する手段となっている。

 同諸島のピラミデンでは、中露両国が共同で研究センターを建設している。ウクライナ戦争後、ロシアは軍隊のようなパレードを開催し、正教会の十字架を違法に建て、スヴァールバル諸島でロシアに挑戦しないように、ノルウェーに厳しい警告を発するようになった。

 本年9月初めには、ロシアの議員が同諸島にテロリスト用の刑務所を建設することを提案した。中国も同諸島の土地取得に関心を強め、レーザー研究基地の設置も最近提案されている。スヴァールバル諸島は、中露両国の重要なスパイ活動の標的となっている。

 ロシアは北極圏のソ連軍時代の基地を数十カ所再開した。中国は北極圏から900マイルほど離れているにもかかわらず、2018年に「近北極圏」国家と宣言し、新たな砕氷船を建造している。

 スヴァールバル諸島は、ノルウェー本土と同諸島を結ぶ重要な海上交通路であるベア・ギャップの先端、またロシアの原子力潜水艦の大半が駐留するコラ半島の北に位置している。紛争が発生した場合、ロシアは西側からの米艦船の進入を阻止するためベア・ギャップを封鎖しようとする可能性がある。

 22年1月、スヴァールバル諸島とノルウェー本土を結ぶ重要な海底ケーブルが切断される事件があった。ノルウェーは公式には結論を出していないが、ロシアによる故意の仕業だったと考えている。

 中国は北部ニーオーレスン集落に黄河と呼ばれる研究施設を運営している。設置されている施設の一つは中国電波伝播研究所と称され、それ自体が「中国の軍事電子産業の主力」を自認する国営軍事電子企業CETC(中国電子科技集団)の一部である。CETCはウェブで、「国防のための技術支援とサービス保証を提供している」と紹介されている。


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