2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月29日

 ノルウェーは7月、中国による3億ドル以上の土地買収計画を阻止した。中国勢は他の土地の購入を試みており、自動運転車や軍事用途に使用できる3Dマップを作成するため、レーザーを使用するライダーの研究施設の設置を提案している。また、バレンツ海の向こう側では、中国の海運会社がロシア国境近くにあるノルウェーのキルケネス港の拡張に関心を示している。

 歴史的に平和共存で知られるこの群島に対する地政学的な注目が最近高まっていることは、スヴァールバル諸島の住民の間に不安感を引き起こしている。スヴァールバル諸島の行政中心地ロングイェールビーンの市長は、「22年2月に突然すべてが劇的に変化した。信頼は壊れてしまった」と述べた。

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中国の関与を受け入れざるを得なくなったロシア

 ウクライナや中東での戦争に世界の耳目が集まる一方、中露両国による北極圏の軍事化が着実に進行している。本件記事は、その様子を紹介して、警報を鳴らすものである。

 冷戦時代、ソ連は、ノーヴァヤゼムリャとスヴァールバル諸島およびノルウェーで囲まれたバレンツ海を、北大西洋条約機構(NATO)の侵入を阻止してムルマンスクに司令部をおく北洋艦隊の活動を確保する「要塞」とし、さらに艦艇の活動範囲をバレンツ海からノルウェー海を経て大西洋へと拡大し、NATOの兵站輸送ルートを妨害する戦略を有していた。この戦略において、スヴァールバル諸島は死活的に重要な役割を果たした。

 スヴァールバル諸島とノルウェーの間には「ベア・アイルランド」があり、本件記事にある「ベア・ギャップを封鎖する」というのは、ロシアがバレンツ海西方の入り口を閉じるという作戦を意味している。

 冷戦の終結によって、この地域の緊張は大きく低下したが、2000年代後半からロシアの軍事活動は徐々に活発化し、いまや冷戦の復活のような様相を呈している。

 北極圏に圧倒的プレゼンスを有すロシアは、この「既得権」の維持を重視し、北極圏に属する8カ国で構成する北極評議会のメンバー以外の国が北極圏の開発等に関与することには元来、強い拒否反応を示していた。07年に中国が北極評議会のオブザーバー資格を申請した時も、ロシアは強く反対したとされている。


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