デイヴィッド・マーサー、アリス・カディー(BBCニュース)、ジェイムズ・ランデイル外交担当編集委員
イギリスが米英共同軍事基地があるインド洋のチャゴス諸島をモーリシャスに譲渡する合意案について、アメリカのドナルド・トランプ次期大統領が検討を行うことになった。
イギリスは昨年10月、海外領土の一部だったチャゴス諸島の主権譲渡を発表。ただし、最大の島ディエゴ・ガルシア島にある軍事基地の運営は、99年間の「当初期間」の間イギリスが維持することになっている。
イギリスとモーリシャスは当初、トランプ氏が大統領に就任する今月20日以前に条約の最終締結を目指していた。報道によると、モーリシャスのナヴィンチャンドラ・ラングーラム首相は、15日の閣議で合意に署名する予定だった。
しかし交渉について知るモーリシャス筋はBBCに、「一夜にしてイギリスの立場が変わった」と語った。また、モーリシャスの法相がイギリスで交渉を続けることが発表された。
ジョー・バイデン米政権はすでにこの合意を承認しているが、英首相官邸は15日、次期トランプ政権がこの合意を「検討する」ことになると発表した。
キア・スターマー英首相の報道官は、アメリカ政府が合意の詳細について検討することは「全く合理的だ」と述べた。
しかし、最大野党・保守党のプリティ・パテル影の外相は、与党・労働党は「トランプ大統領の復帰前にチャゴス諸島の引き渡しを承認することに必死だった」ため、今回の展開は首相にとって「完全な屈辱」だと述べた。
バイデン大統領は昨年10月、この「歴史的合意」を称賛し、「国家、地域、そして世界の安全保障において重要な役割を果たす基地の将来を確保する」と述べていた。
アメリカの軍事および情報機関も、ディエゴ・ガルシア島の法的地位をより安定したものにするという点で、当初の合意に賛同していた。
しかし米政界には、この合意によって、中国がチャゴス諸島に戦略的な足場を築く道が開かれるのではないかとの懸念が残っていた。モーリシャスは中国と貿易協定を結んでいる。
次期米国務長官に指名されているマルコ・ルビオ氏は先に、この合意では中国と提携している国にチャゴス諸島を引き渡すことになると主張し、「深刻な脅威」をもたらすと述べた。
次期大統領がどのように行動するか、どのような助言を受けるか、そしてウクライナや中東の戦争と比較して二次的な問題と見なされるこの問題を検討する時間があるかは不明だ。
イギリスとモーリシャス国内でも反発の声
チャゴス諸島は元々、イギリス領だったモーリシャスの一部だった。イギリスは1965年にチャゴス諸島をモーリシャスから分離し、イギリス領インド洋地域(BIOT)の一部とした。また、ディエゴ・ガルシア島から島民1000人以上を強制退去させ、軍事基地建設の足掛かりとした。
一方のモーリシャスは、1968年にイギリスから独立して以降、チャゴス諸島の領有を主張し続けてきた。国際司法裁判所(ICJ)も、イギリスによるチャゴス諸島の支配は「非合法」だとする勧告的意見を示していた。
15日に行われた英議会の首相質疑で、保守党のケミ・ベイドノック党首は、スターマー首相が「イギリスの領土を引き渡す秘密の合意を交渉しており、この国の納税者がその屈辱の代償を払うことになる」と述べた。
また、「イギリスはチャゴス諸島の領有を放棄するべきではない」と主張。スターマー首相は「災難を招く合意を急いで」おり、数十億ポンドの税金が投じられると述べた。
合意案では、イギリスはモーリシャスに対し、年間支払いおよびインフラ投資を含む一連の財政支援を提供することなっているが、金額は公表されていない。
スターマー首相はベイドノック氏の主張に対し、この合意を擁護。交渉は保守党前政権下で始まったものだと指摘した。
その上で、計画された合意はディエゴ・ガルシア島にある軍事基地の効果的な運用を確実にするためのものだと説明した。
一方のモーリシャスでは、昨年11月の総選挙で政権交代があった。ラムグーラム新首相は選挙から数週間後にはこの条約案に懸念を示し、独立した検討を求めた。
10月の共同声明でモーリシャスとイギリスは、この合意が「両国関係における画期的な瞬間であり、紛争の平和的解決と法の支配に対する我々の永続的なコミットメントを示すも」と述べていた。
チャゴス諸島の住民は、一部はモーリシャスやセーシェルに、また一部は英サセックス州クロウリーなどに住んでいるが、故郷の運命について意見は一致していない。
一部の住民は、自分たちが交渉に参加していないとして、この合意を批判している。
合意案では、モーリシャスはチャゴス諸島に対する再定住プログラムを開始できるが、ディエゴ・ガルシア島は対象から外れている。