泉北高速鉄道の売却では、南海案では運賃が80円安くなるが、売却益が外資系よりも少なかった。一方、外資系案では、売却益は多いが運賃は10円しか安くならず、なぜ、南海に売らないのかという指摘があった。ただ、外資系案に賛成した自治体がある。東大阪だ。東大阪では、この売却益で、現在、伊丹空港から門真市まで走るモノレールを東大阪まで延伸させる計画があり、それをどうするか議論にもなった。最終的には、南海が買収額を積み増しすることで、南海案(750億円)で決着しそうだ。
まだ、自治体が運営権を譲渡することに不慣れな面もあるが、大きな流れとしては、地方分権の走りとして大阪の事例がリトマス試験紙になるだろう」
――最終目標は、大阪が元気になること。行政改革が中心の「大阪都構想」には、経済活性化の道筋が示されていないという指摘もある。経済活性化の視点では、どんなところを期待するのか。
「経済活性化は、広域行政に期待したい。住民のためのまちづくりではなく、対外的なまちづくり。海外からのインバウンドを呼び込むなどは、対外的で広域行政の役割だ。
たとえば、観光事業は、これまで府と市が直轄事業で行ってきた。しかし、役人が事業をすると大赤字。痛い目にあってきた。ワインミュージアムなんかは62億円の赤字を抱え、閉鎖した。フェスティバルゲートやなにわの海の時空館も、観光要素にはならず閉鎖した」
「IR(総合型リゾート、カジノ)にも大いに期待しているが、ギャンブル依存症になるのではないか、外国人が増えて犯罪が増えるのではないか、反社会的勢力が関与しないかなど、そういう次元の話ばかりだ。そうではなく、カジノの利益でエキセビジョンやホテルなど一体的なリゾートを開発し、観光客を呼び込もうという発想で、ビジットジャパンにも沿う計画だ。
中央大学の佐々木信夫教授の話では、シンガポールではIRだけで1兆円を投資したが、2〜3年で6000億円を回収したという。カジノはインバウンドを増やす手段のひとつで、100万〜200万人の観光客を大阪に呼び込むだけで結構なインパクトがあるだろう」
「IRで府市を統合するメリットについて。IRの立地候補地は、臨海の人工島・夢洲だ。ここは市が所有している。現状では、市域は市が整備することになるが、市外の関西国際空港や伊丹空港からのアクセスを整えるには、広域行政で取り組まないと実現できない。関西全体の波及効果では、神戸や京都、奈良などとの交通を結ぶにも、広域行政が必要だ。府と市が話し合って決めるというのでは、府道や市道なども入り組んだりして、スピードが遅すぎる。
カジノでは、世界的なファンドがいくつかあるが、それらが先導すると、まちづくりの視点が欠ける。これは、全国の都市との都市間競争でもある。早く大阪でも受け皿組織をつくり、広域行政として協力し推進していくことが重要だ」
――二重行政のムダをなくせば、府と市を統合しなくてもいいのではという声もあるが。
「前向きな投資とスピードの早い対応を願っている。官僚的な発想だと、セーフティネットの話ばかり。弱者保護ばかりしていると、産業は前に進まない。ダイナミックな転換が必要だ。都市の活力を上げるためには、優秀な人にも来てもらわないといけない。そして、大阪の経済の活性化につなげていかなければいけない。そのために、府市統合はエッセンシャルなことだ」
(聞き手=WEDGE編集部 取材日:2014年2月26日)
◆WEDGE2014年4月号よりでは「『大阪都構想』と橋下改革を検証する」と題した第2特集を展開しています。
◎「大阪市の解体」が都構想の本質 WEDGE編集部
◎橋下徹の功罪とポスト都構想の必要性 吉富有治 (ジャーナリスト)
◎大阪はこれからも大都市を目指すのか 砂原庸介(大阪大学准教授)
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