2025年12月12日(金)

BBC News

2025年11月14日

BBCは13日、番組「パノラマ」でドナルド・トランプ米大統領の2021年1月6日の演説の一部をつなぎ合わせたことについて、大統領に謝罪した。一方、賠償の求めには応じないとした。英紙デイリー・テレグラフは同日、BBCの番組「ニュースナイト」でも似たような編集の映像が流れていたと報じた。

BBCはこの日夜、自らのウェブサイトの「訂正と説明」のページで、トランプ氏の演説の編集が批判されたことを受けて「パノラマ」を検証したと説明。

「演説の異なる箇所から取ったのではなく、連続した部分の映像であるかのような印象を、私たちの編集が意図せず与えたことを認める。これにより、トランプ大統領が暴力的な行動を直接呼びかけたかのような誤った印象を与えた」とした。

また、2024年に放送した当該の「パノラマ」映像は今後放送しないとした。

トランプ氏の弁護団は、BBCが撤回を発表して謝罪と賠償をしない限り、10億ドル(約1546億円)の損害賠償を求める訴えを起こすとしている。イギリスの14日午後10時(日本時間15日午前7時)までに回答するよう求めている。

BBCの広報担当によると、BBCの法務担当はトランプ氏側からの書簡を9日に受け取っており、その対応として、同氏の法務チームに書簡を送付した。

BBC側は書簡で、「BBCのサミール・シャー理事長は別途、ホワイトハウスに私信を送り、トランプ大統領に対し、番組で取り上げた2021年1月6日の大統領の演説の編集について、理事長とBBCが申し訳なく思っていることを強調した」とした。

また、「BBCはこの映像の編集方法を心から遺憾に思っているが、名誉毀損の主張に根拠があるとの見解には全く同意しない」とした。

この問題をめぐっては、BBCのティム・デイヴィー会長とニュース部門トップのデボラ・ターネス最高経営責任者(CEO)が9日に辞任を表明した

BBCニュースは米ホワイトハウスにコメントを求めている。

賠償の必要なしと考える理由

BBCはトランプ氏の法務チームへの書簡で、賠償の求めに応じる必要はないと考える理由として、以下の5点を挙げている。

(1)BBCは「パノラマ」をアメリカで放送する権利を持たず、実際に放送しなかった。BBCの配信サービス「iPlayer」での視聴はイギリス国内の人向けに限定されていた。

(2)「パノラマ」はトランプ氏に損害を与えなかった。放送後にトランプ氏は大統領選挙で当選した。

(3)当該映像に誤解を与える意図はなかった。長い演説を短くしたもので、編集に悪意はなかった。

(4)当該映像はそれのみで捉えられることを前提としたものではなかった。1時間の番組の中の12秒であり、番組全体ではトランプ氏を支持する声も多く取り上げていた。

(5)公共の関心事に関する意見や政治的な言論は、アメリカでは名誉毀損の関連法で手厚く保護されている。

BBC関係者の一人は、こうした主張を正しいと強く信じる空気がBBC内にあると話している。

BBCニュースは、イギリスの文化・メディア・スポーツ省にコメントを求めた。同省は、声明は出さないと回答した。

野党・自由民主党のエド・デイヴィー党首は、トランプ氏に訴訟の脅しをやめさせ、「BBCの公平性と独立性を守る」ために、「トランプ氏に電話をかける」ようキア・スターマー首相に求めた。

新たな「誤解を招く編集」の指摘

BBCがこの日、トランプ氏への謝罪を発表する少し前に、英紙テレグラフは、問題の「パノラマ」の前にも、トランプ氏の2021年1月6日の演説を誤解を招くように編集したケースがあったと報じた。

記事は2022年に放送した番組「ニューズナイト」を取り上げた。その番組では、トランプ氏が「議会議事堂まで歩いて行き、勇敢な上院議員や下院議員の男女を応援するぞ。そして私たちは戦う。死に物狂いで戦う。死に物狂いで戦わなければ、もはや国を失ってしまう」と述べたように映像が流された。

続いて議事堂襲撃事件の映像が現れ、「そして彼らは戦った」というカースティ・ウォーク司会者のナレーションが入っている。

元ホワイトハウス首席補佐官で、議事堂襲撃を「クーデター未遂」と呼んでホワイトハウスを去ってからトランプ氏を批判するようになったミック・マルヴェイニー氏は、同じ番組内でこの映像について、トランプ氏の演説を「つなぎ合わせている」と指摘。

「『私たちは戦う、死に物狂いで戦う』という部分は、実際には演説の後のほうに出てくる。だがこの映像では、二つの部分が一つだったように見える」と述べていた。

BBCの広報はテレグラフの記事を受け、BBCは「最高の編集基準」を自らに課しており、この問題を調査中だとした。

トランプ氏の法務チームの広報担当は、テレグラフに対し、「BBCがトランプ大統領に対する中傷を繰り返していたことは今や明らかだ」と述べた。

トランプ氏の演説を取り上げた「パノラマ」に関する懸念は、BBCの編集指針基準委員会の元外部独立顧問が書いた内部メモが流出し、テレグラフが掲載したことで表面化した。このメモでは、BBCのトランスジェンダーに関する報道と、イスラエル・ガザ戦争をめぐるBBCアラビア語の報道なども批判している。

(英語記事 BBC apologises to Trump over Panorama edit but refuses to pay compensation

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cwyk4zykv0qo


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